親友

「待て!」

 俺は屋上のフェンスに手をかけている目黒さんに向け、出せるだけの力全てを使い叫んだ。

 そのせいかかなり喉が痛むが今はそれどころではない。

「...久しぶりだね」

 目黒さんは少し困ったように笑ってみせた。

「久しぶりだね、じゃねーよ!...とりあえず、こっちに来て!」

 俺の叫びに目黒さんは一切動じる事なくその場に張り付いている。

「...ごめん、無理かな」

 今まで聞いた事がないような冷たい声でそう呟いた。

 瞳から今にでも溢れてきそうな涙を堪え、どこか苦しそうに鉛色の空を見上げている。

「なら、何で...この場所を教えたんだよ」

「...」

 目黒さんは一瞬身体をピクつかせたものの、すぐに持ち直した。

「死にたくなかった...或いは自分を求めて欲しかった?そんな所か?」

 この状況を見れば誰だってわかる。

 よくよく見るとフェンスを握る目黒さんの手は震えていた。

「でも、それは間違っている。それで得られる物なんてただの虚像だ。」

 そんな歪で醜い紛い物は持つべきではない。

 俺もそうだからわかる。

 ...でも

「...!なら...どうすれば、良かったのよ!?」

 目黒さんの瞳からとうとう、大粒の涙が溢れだした。

「親にはプレゼントあげても目の前で捨てられるし...!友達だって猫被ってないとどうせ一緒に居てくれない...」

 目黒さんは涙をハンカチで拭き続けた。

「...だって、君にだって恩を仇で返してるだよ?...そんなバカ女、みんな御免でしょ?...もう、生きてても息苦しいだけ!」

 そう叫ぶ目黒さんの声も枯れていた。

「...なら、俺といればいい」

 目黒さんは瞳を大きく見開いた。

「...なんで...なんで、今そういう事言うの...?君だって...!私の事、邪魔って思ってる癖に!」

 俺は目黒さんの近くへと駆け寄り、フェンスを強く握り過ぎたのか赤く腫れている手を握った。

「俺も嬉しかったんだよ...周り見渡しても、恵まれてる癖にそれを自覚してないヤツらばっかで...でもお前は同じって思えたんだ」

 俺たちは似ている。

 勿論、見た目や性格の話ではない。

 変な所で負け癖がついている所や何かにすがり、依存せずにはいられない所。

 ...本当にため息が出るくらいには似ている。

「だからさ...俺の親友になってくれ...!...俺と一緒にいればいい」

 目黒さんは深呼吸をした後、目を細めた。「...何度も言うけど...きっと私、本当に君に依存しちゃうよ?」

「挑むところだね」

 こうして俺に親友が出来たのだった。



 一章完結!


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