置き去り

 次の日の午後8時、俺はまたバイト帰り夜道を歩いていた。

 そういえば今朝、下駄箱にて目黒さんは昨夜の3000円を返してくれた。

 まさかこんなに早く返してもらえるとは思っていなかったので少し驚いた。

 ただ少し気になる所が、目黒さんが昨日の事がまるでなかったかのように過剰過ぎる程の満面の笑みを浮かべてきた所である。

 その笑みはとても痛々しかった...

 きっといつもあんな感じで笑顔で取り繕っているのだろう。

 なんて考えていたら例の場所にまた体育座りをしている少女がいた。

 ...目黒さんだ。

 それと小太りな中年男性が目黒さんに話し掛けている。

 話し掛けていると言うのは目黒さんは無視しているからだ。

 大きなお世話かもしれないが一応助けに行くことにした。

「こんばんは。目黒さん」

 俺の介入に男性は動揺したのか後ろへ一歩下がった。

「う、うん。こんばんは」

 目黒さんも作り笑いがいつもよりぎこちない。

「その人知り合い?」

「...違うかな。夕飯ご馳走してくれるって」

 これはおそらくと言うかほぼ確定でナンパだろう。

 しかも未成年ナンパと言うアンダーグラウンド感満載のヤバいやつだ。

「君!話を遮らないでもらえるかね?そんなんじゃ社会に出た時に困るんじゃない?」

「現在進行形で反社会的な行動を取っている人に言われたくないんですが」

 まさにお前にだけは言われたくないである。

「ただ飯を奢るだけだ!お前、本当にそれじゃ社会でやっていけないぞ?」

「あー...もしかしてもう少しで刑務所にぶちこまれるから反面教師になってくれているんですか?ありがとうございます~」

 俺はキレている男性を横目に目黒さんの手を取りその場から逃げるように走り去った。



 あれから俺は取り合えず目黒さんを家に入れお茶を出していた。

「これほうじ茶」

「...ごめん?ありがと」

 取り合えず俺は疑問点をそのまま聞くことにした。

 失礼かもしれないが、一応助けたのだからそれくらい聞く権利はあるだろう。

「...なんで、今日もあそこにいたの?お金がなくても人通りの多い所にでもいれば良かったんじゃない?」

「...お母さんがあそこで反省してろって言うから」

 つまり母親からあそこに置き去りにされているのだろう。

「...で?迎えに来てくれるの?」

「二回に一回は迎えに来てくれるよ」

 と言うことは迎えに来てくれずそのまま夜通し過ごす事もあるのだろう。

「...ちなみに何時頃?」

「う~んと12時くらいかな」

 この世の中は親になれる能力もなければ人格もないクズでも親になれる事が出来る。

 まさにこれはその最たる例だろう。

 俺はそれが許せなかった。

「提案なんだけどさ、その待ち時間うちのバイト先で待ってない?多分融通効かせる事出来るから」

「...ごめん、なんでそこまでしてくれるの?」

 目黒さんは少し警戒するような口調でそう呟いた。

「目黒さんの親みたいな人見てると反吐が出るからかな。ここで見過ごしたらそういうヤツらに加担してる気がして」

 あいつらの味方になるなんて死んでも嫌だ。

 そうなるくらいだったら俺は喜んで死を選ぶだろう。

「だからこれは俺のエゴだよ。クラスメイトの為だと思ってダメかな?」

 全ては俺のためである。

「...逆に良いの?こういう事してたら私...弱いから君に依存しちゃうかもよ?」

 それでクズ共一泡吹かせられるのならば本望だ。

「別に良いんじゃないの?結局、みんな...勿論俺だって誰かに依存してるわけだし」

 と言うことで俺は目黒さんが帰った後バイト先に連絡しておいたのだった。





今後~

 

 目黒さんバイト先にくる!?

 新キャラも登場予定なのでぜひ~

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