深夜の傷

 出会いは突然だった。

 バイト終わり、いつも通りMacでタブチを買い夜道を歩いていた時。

 家から100mもない、コンビニの駐車場の前でうちの高校の物であろう制服を着たJKが体育座りしてうずくまっていた。

 俺は別に善人でもないので普段なら素通りしていただろう。

 暗がりでよく見えないがあの少女だって、思春期を迎えている高校生。

 きっと色々あるのだろう。

 だが、昨夜のニュース番組でここ付近の歓楽街で女子大生が襲われたと報道されていたことが脳裏をよぎった。

 しかも犯人がまだ捕まっていないと。

 もしここで俺が助けなければ襲われてしまうかもしれない。

 流石にこの状態で見過ごす訳にもいかないので俺は声を掛けるのとにした。

 まあ、取り合ってもらえないのであれば警察にでも通報すれば良いだろう。

「こんな所に長居してたら風邪引きますよ?」

 俺はなるべく相手に警戒されないように、6mくらい距離を取って声をかけた。

「...えっと、内田くん?」

 と何故か女は俺の名前を困惑した様子で呟いた。

フルーツのように爽やかで甘い香りに、今時風に崩された制服。

 ......よく目を凝らしてみると女は、同じクラスの目黒 花憐さんだった。

「目黒さん?」

「...うん」

 ここでしばしの沈黙が続いた。

 俺はそれを打破する為に少し距離をつめる。

「ところで、どうしたの?」

 俺の問いに目黒さんはあからさまに顔を強張らせた。

「別に...」

 別に...な訳がない事は誰から見ても一目瞭然である。

「ここだと危ないし、せめてファミレスには行った方が良いと思うよ」

 女子高生が夜道で体育座り。

 あらかた、親と喧嘩して家に帰り難いとかだろう。

正直、意地を張らずに帰れよと思うが他人の俺が言うのはあれなので、何も言わないことにした。

結局、困るのは彼女で俺は関係ないのだ。

「...お金ないし」

......だが、これでもし襲われでもしたら俺は一生後悔することになるだろう。

それだけは嫌なので、俺はお金を貸すことにした。

バイトと学校に通うだけの生活でお金は貯まる一方なので、精神的ストレスを負うぐらいだったら安いものである。

「なら、貸すよ。返すのは何時でもいいから」

「...え?でも...」

 バックから安物の財布をまさぐる。

 ...がそれらしい物が見当たらなかった。

「ごめん、お財布家に忘れちゃってたみたい...急いで取ってくるね」

「そこまでしなくても...」


 あれから一応は23区内にある、ぼろアパートの二階.......つまりは我が家に俺と目黒さんは来ていた。

 一応、あの場所は危なさそうなので玄関前までは来て貰う事にしたのだ。

「ちょっと待っててね」

「ごめんね...ありがとう」

 と言うことで俺は一人で家に入った。

 玄関からすぐの丸テーブルにお目当ての財布が置いてあったので俺はそれを取り家を跡にした。

「3000円くらいで良いかな?」

 目黒さんは申し訳なさそうにこちらを見つめてきた。

「...うん、それぐらいかな。本当にありがとね」

 3000円を手渡そうとしたのだが俺はとんでもない違和感に苛まれ、すぐにその正体に気づいた。

「それ...大丈夫?」

 先程までは暗がりで気づかなかったが、腕は内出血したのか青く腫れているし太股にも切り傷のような物がある。

「...」

 目黒さんはただ無言で俯いている。

「取り合えず手当てだけうち来てしない?」

 と言うことで俺は最悪の形で人生で初めて女の子を家に入れる事になったのだった。

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