焼き鳥が焼き鳥を食べるだけ。
友坂 悠
焼き鳥朱雀。
そう。一度ここに来てみたかった。
店先から薫る匂い。
本格的な、目の前で焼いてくれるのを食べれるらしいそんな焼き鳥屋さん。
スーパーでパックになっているのなら食べたことあるけれど、どうやらこういうお店で食べるのとは美味しさが違うのだそうだ。
手にお札を握りしめ、いざ。
ガラガラって扉を開けると、「らっしゃい!」と声がかかった。
まだ時間は早い。わし、一番乗りか?
ふふ、楽しみだ。
「んー。坊主、一人か?」
「ああ。一人じゃが」
「そっか。持ち帰りなら事前に電話で注文しておくれな。ここは大人がお酒を飲みながら焼き鳥を食べる店なんだ。子供一人店の中に置いておくわけにはいかないんだよ。酒臭いしな」
そう言って店の入り口に立ちはだかった大男。
白い割烹着にエプロンが似合わない、一見どこぞの傭兵かと思うほどの筋肉ゴリラで。
「失礼な! わしは子供ではない! これでも
「そういうところが厨二くさいな坊主。まあしょうがないな。好みはあるか?」
え? 意外と優しいのか? このゴリラ。
「そうじゃの、つくねは好物じゃ」
「タレか? 塩か?」
「タレじゃのー! あまーいタレが好みじゃよ」
「そうか。じゃぁ逆に、嫌いなものはあるかい?」
「そうさのう。ブヨブヨした皮は苦手じゃなぁ。あとは砂肝か、臭いからの」
「もしかしてお前、スーパーの焼き鳥しか食ったことがないのか?」
「うー。そうじゃよ、悪いか?」
「じゃぁとびっきりうまい皮と砂肝も入れといてやるよ。予算は、その手に握った千円札かい?」
「ああ、そうじゃ。お札じゃよ。これだけあれば」
「はは。まあいいや。ちょっと待ってな」
案内されるまま正面のカウンターに座らされ。
従業員らしい兄さんが湯呑みにお茶を入れ手前に置く。
両手で包むようにして持つと、まだちょっと熱い。
熱には強いが飲む分にはもう少しぬるくなった茶が好みではある。
ふうふうと息を吹きかけこくんと飲んだ。
さあ、これから目の前に焼き鳥が出てくるのかと思って中を覗くと。
うぬ?
焼き上がったらしい串をガサゴソと包むゴリラ。
「お主、これはどういうことじゃ!?」
お土産結びに包まれた焼き鳥を手渡すゴリラの親父にそう抗議するが。
「ちょっとサービスしといたからな。さあこれを持って帰りな。急いで帰ればうまい焼き鳥が食えるぞ」
そうニカっと笑うその親父の顔に。
まあ仕方ない。子供と思われたままなのは癪だがうまい焼き鳥が食べられるのであればそれでも良いか。
「すまぬな。ではまたくる」
そう言い残し店をでる。
うむ。これは。
包みからにおう美味そうな香り。
家に帰るまで待ちきれん。
そこの公園のベンチで食うとしようか。
つくねにネギま。
やはりほっぺたが落ちそうなくらいうまい。
パリパリに焼けた皮も。
グネグネのスーパーの焼き鳥とは比べ物にならないくらいうまい。
砂肝も。コリコリとして臭みがなく。
あー。
やはり美味い。あの店に行ってよかったと、そう思ったところで。
「美味そうなもの食ってますね朱雀様。おいらにも一本くださいな」
そう白猫に声をかけられた。
「おお、白虎ではないか。お主も転生しておったのか?」
「ええおかげさまで。朱雀様ほどではないですがこれでももう4000年は過ごしてますからねこの世界で。時々ガワを交換してやらないと、ですかね」
「じゃのう。世界に在るには命が必要じゃからの」
「朱雀様はご自身で再生されるからいいですが、おいらは生まれ直しですからねー。大変なんですよ?」
「はは。
「朱雀様だって」
「わしは再生後はいつもこの姿じゃよ?」
「そうでしたそうでした。少女とも見紛うほどの美少年。不死鳥朱雀様の本来のお姿ですもんね」
ん? それじゃぁ共食いじゃと?
馬鹿をいうでない。
獣が他の獣の肉を食ったとて、それは自然の摂理じゃろ?
わしだってこうして焼き鳥を食べるんじゃよ。
それのどこが悪いかの?
「しかし旨いですねこの串」
「そうじゃろうそうじゃろう」
まあこうして誰かと食べる飯はうまいのじゃ。
「そうじゃお主、人に変化できるかの?」
「ええ、できますが」
「大人、にもなれるかの?」
「はは。おいらこれでも猫としてはもう大人ですからね」
「じゃぁ次はお主と二人であの店に行くとしよう。それならば」
きっと、美味しい焼き鳥を思いっきり楽しめる。
そう思うのじゃ。
FIN
焼き鳥が焼き鳥を食べるだけ。 友坂 悠 @tomoneko299
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