第26話:メッセージが来た
ふぅ、今日は色々あったし疲れたなぁ。
あ、いや。今日『も』色々あった……だな。
やるき館でバイト始めてから、毎日色々ありすぎる。
──なんて思いながらLINEの友達一覧を見てる。
なんと女子のアカウントが三つも並んでる。
ついこの前まで、女子と一対一でLINE交換なんかしたことなかったのに。
これが花の大学生活ってヤツか。
いや……アカウントが並んでるだけで、どうせ誰ともメッセージのやり取りなんかしないんだ。
それってかえって詫びしいことかもしれん。
寂しくなんかないぞ。
悲しくなんかないぞ。
──くそっ!
ところで小豆のアイコンはワンちゃんか。
これはマルチーズだな。小豆んちの飼い犬かな?
そう言えばこの前公園で見かけた時、子犬を愛しそうに撫でてた。好きなんだな、犬。
──ピコン!
うわ、びっくりした!
スマホを眺めてたら突然メッセの着信音が鳴った。
あ、なんだ竹富か。
LINEの交換はしたものの、用事もないのになんでメッセージ送ってくるんだ? 暇なのか?
『やっほ。返事ないんだけど?』
返事? なんのことだよ。
……あ、そう言えば夕方に竹富からメッセージ来てたな。
確か『ケーキの美味しい店を見つけた』とかいう話だった。
わざわざ俺に言ってくる意味がわからんから、返信するか迷ってるうちにすっかり忘れてた。
『俺、別にケーキが好きとかないし』
そういうことは、『ひと目落ち』したとか言ってたゼミの男に言えよ。
俺なんかにわざわざ送ってくる内容じゃない。
『じゃあ銀次はなにが好きなの?』
返信早っ!
コイツ、よっぽど暇とみえる。
退屈しのぎの相手にされてるんだな。
しばらく放置しとくか。
──ピコン!
なんだよ。またメッセを送ってきて、返事の催促か?
竹富も意外としつこいな。
──あれ? 今度は小豆から?
マジか?
アイツが俺にメッセージを送ってくるなんて。
もしかして……スマホが壊れたか?
送ってもないメッセージが届く故障とか。
スマホを振ってみたり、他のアプリを調べてみたけど、特になにもない。
……って、俺アホか。
スマホが壊れてメッセージが届くなんてあるわけない。
とにかく小豆からのメッセージを見てみよう。
『銀には色々と助けてもらってるのに』
えっと……このメッセージはなに?
この一文だけだ。何を言いたいんだ?
相変わらず、わけのわからん行動するヤツだ。
作成途中の文章を間違えて送っちゃったか?
あはは、相変わらずバカだなコイツ。
ぼんやり画面を眺めてたら、またピコンと鳴った。
びっくりしたー
小豆から続きのメッセージか。
『いつも失礼なこと言ったりしてごめん。ホントは感謝してる』
──ん?
なんだこれ。珍しく素直でまともなこと言ってる。
もしかして高熱でも出たか?
なんて思ったけど。
次の一文を見て、背筋に電流が流れた。
『あたし、塾をやめる』
──え? マジか? いきなりなんで?
……あ、いやいや。小豆のことだ。また俺をからかってるんだな。
俺がマジな返信なんかしたら、『嘘だよバーカ』って返してくるんだろ。
騙されないぞバーカ。
よし、『お前なんてやめろ!』って送り返してやろう、あはは。
…………。
なんか胸騒ぎがする。
万が一小豆のメッセージが本気なら、俺の返事で取り返しがつかなくなるかもしれない。
念のために──
『なに言ってんだよ。なにがあった?』
そう返したけど……
いや、冗談ならそれに越したことはない。
うわ、小豆の返事を待つのドキドキする。
──ピコン!
あ、返事が来た。
小豆は本気なのか? 本気だとしたら、やめるなんていう理由はなんなんだ?
恐る恐るスマホを覗き込む。
『もつ鍋の美味しい店見つけた! 銀次は食べる方なら大好きでしょ!』
──って、竹富かいっ!
しかもなんという能天気さ。
確かに俺は高校時代大食いだったし、クラスでも男連中とよく食い物の話をしてた。
だけど今はもつ鍋よりも小豆のことだ。
『悪い。今忙しいからまた今度話そう』
とりあえず竹富にはそう返した。
竹富からは『りょーかい』と文字が書かれたイラストスタンプが返ってきた。うん、相変わらず脳天気だ。
だけど小豆からは、しばらく待っても返事がない。
うーむ……無視するつもりか小豆。
でもまあ。
「あんなやる気のないヤツ、塾代がもったいなくて親が気の毒だよな。それにアイツがいなくなれば、俺のストレスも軽減される。ああ、そうだよ。あんなヤツ、やめるならその方がいい。せいせいするわい!」
俺の声が響いた後は、部屋の中がしんとなる。
声に出して、小豆がやめることをあえて正当化してみたけど。
──ダメだな。
胸がざわざわするのを抑えられない。
だってアイツ。質問にきたりして、最近ようやくやる気をちょっとは見せるようになったんだぞ。なのになんでそんなことを言い出すんだよ。
ああっ、もうっっ!
あのアホたれがっ!
でも俺のメッセージに返事を寄越さないということは、俺と話をするつもりはないってことか。
でもこのまま放っておく気にはなれない。
『アホなこと言うな。やめんなよ』
でも──その日はもう小豆から返事が来ることはなかった。
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