第4話:ゴールデンパインエナドリ①
***
「おっ、この自販機……ゴールデンパインエナドリあるじゃん」
ある日の夕方。ひと仕事終えて休憩中。
塾近くの自販機に飲み物を買いに来た。
俺が今一番ハマってるドリンク。
旨いんだなコレが。
でもあんまり売ってない、レアアイテムなんだよな。
バイト先近くで見つけるなんてラッキーだ。
今日はきっといいことあるに違いない!
早速プシュっとフタを開けてゴクリとひと口。
うん! 爽やかな甘酸っぱさがサイコー!
「あ……ゴールデンパイン・エナドリ……」
──ん?
声が聞こえて横を見たら、制服姿の金髪ギャルがいた。
今から塾なんだな。やる気はないけど、ちゃんと通ってはいるんだな。
ん? 俺の手の中のドリンクを見てる。
こんなレアドリンクをフルネームで知ってるってことは……こいつもコレ好きなんか?
そうだな。ちょっとでもコミュニケーション取るために、一本おごってやるか。
「……飲む?」
「は? 間接キスさせたいの?」
いや、『コレ買ってやろうか』って意味で、ドリンクを目の前に出しただけだ!
俺のを飲むかって意味じゃない!
そう言えば高校生の時は、間接キスとか必要以上に意識してたな。コイツ案外純情なのか?
いや、ギャルだぞ?
「アンタと間接キスなんかしたらスケベが移るからいらない」
やっぱり純情なんかじゃなかった。
「スケベは移らんわい」
「ほぉ……自分がスケベだってのは認めるんだね」
「ち、違う! そういう意味で言ったんじゃない!」
確かに初めて会った時にコイツの脚をガン見してしまったのは認める。
だけどあれは綺麗な脚だとびっくりしただけで、別にスケベな目で見たわけじゃない。
「八丈先生みたいなイケメンだったら間接キスしてもいいけどね。誰がアンタなんかと。あっ……」
「別にコレを飲めって言ったんじゃないよ。おごってやろうかって意味だ……っておいおい! 人の話を聞けよ!」
俺の話を無視して、ポーっとした顔で横を向いてる。
なんだコイツ?
視線の先は──あ、
ちょうど出勤してきたのか、塾に向かって歩いてる。
「なんだよ。自分だってイケメンに見とれてるくせに」
「悪い? 八丈先生はカッコいいんだから仕方ないじゃん……とにかく私に関わらないでっ!」
うわ、怒って行ってしまった。
いや、せっかくおごってあげようと思ったのに。
人にスケベとか言いながらイケメンに見とれるヤツが悪い。うん、そうだな。そういうことにしとこう。
良かれと思って声かけても文句言われるし。
アイツに言われるまでもなく、俺もあんなやつに関わりたくないわいっ!
***
「──で、なに? トイレの前で待ち伏せってストーカー?」
「いや、俺がトイレに入ろうとしたら、たまたまお前が出てきただけだ!」
「キモっ」
「だからたまたまだって言ってんだろ。俺だってしょんべんくらいするわい!」
「しょんべん……うわ、下品」
「は? じゃあなんて言うんだよ? お小水か?」
「だからそんなの、いちいち言わなきゃいいでしょ」
「あ……そりゃま、そうか」
「だよね。バカ」
──あ、また暴言残して立ち去りやがった。
小豆とは関わらないでおこうと思ってるのに。
同じ塾にいるんだから仕方ない。
それにしてもムカつく。
「口悪くてごめんなさい、銀ちゃん先生」
──あ、黒髪清楚な友香ちゃんか。さっきのを見てたんだな。
友達をフォローするって、なんて優しい子だ。
顔つきも優しいし癒される。
「いや別に大丈夫。気にしてないから」
ホントは気にしてるけど。
「ああ見えて
「うん、そうだね。わかってる」
そんなはずはないじゃん。あの小憎たらしさだぞ。
「それに小豆ちゃんは、銀ちゃん先生を認めてると思います」
「え? なんで?」
「昨日私の質問に親切に答えてくれてるのを見て、後で小豆ちゃんは『ふぅーん』って言ってましたし」
──え? それって認めてるってこと?
いや全然認めてないよね!?
「それに今朝のことも言ってました」
「なんて?」
「『あのくそバカがドリンクを奢ってくれるって言った』って」
なんだ、あの言葉聞こえてたんだ。
でも──
「それって単にディスってるだけだよねっ!?」
「いえ。認めてるからこそ、わざわざ私に言うんじゃないですか?」
「そうなの?」
「えっと……たぶん。小豆ちゃんって素直じゃないから」
いや、認めてるなんてことないでしょ!
絶対に違うと思う。
それにしても友香ちゃんって、なんでもいいふうに取る性格なんだな。なんていい子なんだよ!
「そっか、ありがとう」
あのギャルが俺を認めてるなんてあり得ないけど、友香ちゃんの天使のような心に水を差すのはやめとこうって思った。
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