1. Share one Umbrella

小谷こや?」

 後ろから聞き慣れた声がした。ので、立ち止まった足を再び進めた。

「無視かよ…」

「無視してません。帰り道、一緒なだけでしょ」

「そうとも言うね」

「そうとしか言いません」

 気付けば、隣を歩いている顔面偏差値高めでスタイル抜群な大槻おおきさんも傘を差してない。

「何で、傘差してないんですか?」

「それ、小谷が言う…?」

 少し笑いながら、私が持ってる傘を奪い取り、

「俺は、元カノに傘をあげただけだよ」

「流石、大槻さんですね…」

 傘を差した大槻さんは、私に近寄る。相当濡れてて今更…、と思ったので、少し距離を取る。

「また会えるかも知れないから、ね」

「未練の言葉がよくお似合いですね」

「嫌味、ありがとう」

 でも、大槻さんから元カノと復縁を聞いたことはない。

 一瞬、グラッと体が揺れた。最近、あまりよく眠れてなかったから、かな…。

「小谷、大丈夫か…?」

「うん…」

 私の手と腰に、大槻さんの手が腕が…。嫌ではないけれど、何となく引き離そうとした。

「無理するな」

「してない…」

 抵抗する私に、大槻さんは笑い出す。

「どうしたんですか。何か面白い要素ありました…?」

「そういうところじゃない?」

「………??」

「隙がない」

「それは大槻さんだから」

「俺以外でも一緒のことしてない…?」

「してませんよ」

 甘える時は甘える。大槻さんには絶対しませんけど。

「じゃあ、ツラいって言えたの?」

「言ってませんよ」

「ほら、言ってないじゃん」

「言いませんよ。彼氏じゃなかったんですから…」

 これで分かったでしょ。って、捨て台詞吐いて去って行こうとしたら腕を掴まれて大槻さんから離れられない…。

 離してくださいと言おうとして、顔を上げて大槻さんを見たら真剣な顔で、

「小谷を遊んだヤツ、誰?」

「教えませんよ」

 もうブロックしたので、永遠に連絡先なんて知りませんから。

「そっか…」

「大槻さんみたいなヒトが彼氏だったら、よかったんですけどね…」

 思わず、言ってしまった…。

「あ。性癖を除いて、ですけどね」

「あの、性癖も含めて俺なので、含めて貰えませんでしょうか?」

「含めちゃったら、付き合うことになりませんか?」

「そうとも言うよね」

「そうとしか言いません、よね?」

 いつものオチのように言ったつもりなんだけど、大槻さんは意外と真顔だった…。

「小谷、付き合わない?」

「正常な思考の時にお答え…」

「そんなに深く考えなくていいよ」

「え…?」

「好きか嫌いか」

 コイビトつなぎしておきながら、そういうこと聞くのは、ズルい…。

「答えはその二択で、俺は小谷のこと好きでそのままの俺を受け入れてくれるヒトだと思ってるけど…」

「大槻さん、それはあなたが包み隠さず言うからでは…?」

「そうとも言うね」

「そうとしか言いません」

 今だけは、それでも救われた気がした…。

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Death Ray @tamaki_1130_2020

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