大好き

「俺、リウィアの事が大好きなんだよ!」


 仕事も大方片付き、リウィアと二人で休憩がてら果物を摘まんでいたタルキウスは急にそんな事を言い出した。


「ど、どうされたんですか? 急に?」


「だってさ。リウィアは俺のためにご飯を作ってくれたり、朝起こしてくれたり、いつも俺の面倒を見てくれてるじゃん。でも俺はリウィアに何もしてあげれてないなって思って。だから、俺がリウィアの事がどれだけ好きなのかを知ってもらいたいって思ったんだ」


 何を今更、とリウィアは思わずにはいられなかった。自分のタルキウスを慕う気持ちは当然だとしても、タルキウスが自分をどれだけ慕ってくれているのかをリウィアは肌で日々実感していたからだ。

 とはいえ、どれだけ好きなのかを一体どうやって表現しようとしているのかリウィアは少なからず興味を抱いた。


「俺はね。これっくらいリウィアが大好きなんだよ!」

 タルキウスはそう言って、両手を左右に可能な限り広げた。


 何とも子供らしい表現の仕方だなと思ったリウィアは、堪え切れずについ吹き出してしまう。

 それを見たタルキウスは機嫌を損ねたのか眉毛を釣り上げ、頬を膨らませてふくれっ面になった。


 せっかく自分の事を好きだと言ってくれているのに、怒らせてしまっては申し訳ない。そうは思いつつも、もう少しおちょくってみたい、という衝撃が脳裏に芽生えている事をリウィアはよく自覚していた。


「私はタルキウス様の事がこのくらい大好きなんですよ」

 リウィアもタルキウスと同じように両手を左右いっぱいに広げてみせた。


 体格の違いからどちらの方が大きく見えるかは一目瞭然であり、タルキウスに勝ち目があるはずもない。


「うぅ。それはズルいよ」

 タルキウスは悔しそうな顔を浮かべるも、すぐにそっぽを向いて果物に手を伸ばし、黙々とそれを食べ始める。

 どうやら完全に拗ねてしまったらしい。


「ふふ。ごめんなさい。ちょっと意地悪が過ぎましたね。謝ります」

 謝ってはいるものの、内心ではもうちょっと意地悪をして、タルキウスの反応を見てみたいとリウィアは考えていた。

 しかしそれをしては、流石に申し訳ないと思い、今度は謝って機嫌を取ろうとする。


「……俺は、この世にあるどんなものよりもリウィアが好きだ」


「ありがとうございます。それは私も同じです」


「同じじゃない! 俺の方がずっと好きなの!」


「ふふふ。そう言って頂けて嬉しいです」


「リウィアのためなら、俺は何でもやるんだからね!」

 リウィアに喜んでもらえたと思ったタルキウスは、ニッコリと笑いながら得意げにそんな事を口にする。


 それを聞いたリウィアはちょっと意地悪を思いついてしまった。

「それでは一つお願いがあります」


「何? 何でも言ってよ!」


「これからは私が起こす前に御一人で起きられるようになって下さい」


「え?」

 まさかの頼みにタルキウスは目を見開いた。


「タルキウス様が朝、御一人で起きられるようになれば私はすっごく大助かりなんですよね」


「で、でもさ。朝起きるのってすごく難しいじゃん」


「タルキウス様は、いつも夜遅くまでお仕事をされているから起きられないんですよ。お仕事を頑張るのはご立派な事とは思いますが、少しは限度というものを覚えて頂かなければ、いつか体調を崩してしまいますよ」


 それはリウィアの本音だった。

 朝が弱く、中々起きられないだけというのであればまだ良い。しかし、毎日夜遅くまで仕事をしている事で疲れが溜まり、睡眠時間も削られてその結果、睡眠不足に陥っている。

 そんなタルキウスの生活習慣を改めさせようと、リウィアはこれまでにも何度も注意をしているのだが、タルキウスはそれをまったく聞き入れなかった。


「うぅ。そ、それは分かってはいるんだけど。ってリウィア! そうやって話を逸らさないでよね!」

 そう言うタルキウスこそ話を逸らそうと必死になっている。


 そんなタルキウスの言動を見聞きしていると、つい愛おしく思えて、何でも許してしまいそうになるのもリウィアの悪い癖だった。

 タルキウスは無意識の内に繰り出したテクニックによって、リウィアの気を紛らわせていくのだ。


「ふふふ。ですがタルキウス様。わざわざ言って頂かなくても私にはちゃんと分かっていますよ。タルキウス様がどれだけ私の事を大切に思って下さっているのかを」


「本当に?」


「はい! タルキウス様の事でしたら何だって知ってるんですからね」


 リウィアの言葉を聞いたタルキウスは、一瞬だけ恥ずかしそうに頬を赤くする。しかし、すぐに嬉しそうに満面の笑みを浮かべて「良かった」と口にする。

 そしてタルキウスの笑顔を見て、リウィアは心の底から幸せな一時を実感するのだった。

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