誘拐犯を追う
夜遅く。
タルキウスは庶民の衣服を着て、ローマの町中を歩いていた。
街灯のおかげで夜とは思えない明るさは確保されているが、それでも昼間の明るさには遠く及ばない。
また人通りは少なく、そんな中を一人で子供がうろついていたら攫ってくれと言っているようなものだ。案の定、タルキウスが裏路地に入ったところで。
「おいおい坊主、こんなところで何をしてるんだ?」
「ひょっとして迷子なのかい? なら、おじさん達と一緒に来いよ」
柄の悪い大人の男性が二人、タルキウスの前と後ろに現れた。
「……随分と簡単に釣れたな。流石に拍子抜けするぜ。ま! 手間が掛からなくて良いけどよ」
「んあ? おめぇ、何をブツブツと言ってやがる?」
「構わねえから、とっとと捕まえちまおうぜ。こいつ、中々の上玉だから高く売れるぜ!」
二人が一斉に動き出してタルキウスを捕まえようとする。
「遅いな」
タルキウスは地を蹴ると、その小さな身体を宙へと押し上げた。
そしてちょうど良い高さで身体を回転させて回し蹴りを披露し、男二人の頭を勢いよく蹴飛ばした。
「ぐはッ!」
「な、何だよ、この、ガキ……」
凄まじい衝撃が頭を襲った二人は、あっさりと脳震盪を起こして気絶してしまった。
「ったく、弱過ぎる。まあ良いや。それじゃあさっさと尋問して、あいつ等のアジトを見つけるとするか。あんまり遅くなると、リウィアも心配するしな」
タルキウスは歯を見せて、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
◆◇◆◇◆
タルキウスはローマの町外れの森の中にある貴族の邸へとやって来た。
「なるほど。隠れ家にはちょうど良い場所だな」
こそこそするでもなく、タルキウスは正門から堂々と中に入ろうとする。
「ん? おい、そこのガキ! こんなところで何をしている!? ここは貴族の邸だぞ!」
「そうだ! お前のような下賤の輩が来るような場所ではない! 帰れ帰れ!」
「いや、待て。こいつけっこうな美形だぞ。とっ捕まえれば、奥様がさぞ喜ぶだろうぜ」
正門の番兵が四人、ゾロゾロとタルキウスに近付いて逃げ道を塞ぐ。
彼等の会話から、ここが誘拐犯の根城で間違いないのだと察したタルキウスの行動は速い。
「ぐはッ!」
それは一瞬だった。
黒い閃光が駆け抜けたかと思えば、番兵の一人が弾け跳び、大柄の身体は後ろの正門に激突した。
「な、何だ!? がはッ!」
突然、仲間の一人が吹き飛び、何事かと思った瞬間、もう一人の番兵の身体も空中に飛び上がる。
そしてそのまま重力に身を任せて落下し、背中から地面に叩き付けられ気絶する。
そのあまりの早業に残りの二人は慌てふためいて逃げ出した。
「な、何だよ、このガキ!」
「ば、化け物だ!」
「化け物とは失礼な奴だな。さっきはけっこうな美形って言ってたくせによ!」
タルキウスは右手を前に突き出した。
その瞬間、右手に膨大な魔力が収束して炎を生じさせる。
発生した炎は一瞬にして巨大な塊へと変貌し、まるで意思を持った蛇のように蠢いて逃げる番兵二人を呑み込んで焼き尽くす。
「こんなので番兵が務まるとはな。まあ良いさ。俺にとっては都合が良い」
そう呟いたタルキウスは、魔法で木造の門を焼き払って邸の敷地内へと入る。
燃え上がる炎で異変に気付いた邸内が慌ただしくなり、番兵達が“奥様”と呼んだ人物の抱えている奴隷達が様子を見に外へ出てきた。
「
タルキウスが人差し指を前に突き出し、そう唱えた瞬間。指先から数十本の白く細い稲妻が飛び出し、それぞれが邸から出てきた奴隷達に襲い掛かる。
タルキウスが扱う雷魔法の中でも最弱クラスのこの魔法は、本来はちょっと痺れる程度の威力しかない。だが、魔法の天才であり、人並み外れた魔力を誇るタルキウスの手に掛かれば、相手を感電させて気絶させるほどの威力を発揮できる。
邸から出てきた奴隷達は全て気を失って倒れ、タルキウスは横たわる彼等の身体で舗装された地面を歩いて行く。
邸の入り口から中に入ると、タルキウスの視界には広大なホールが広がる。
「あらあら。騒がしいと思って来てみたら、黄金王ではありませんか」
ホールを一望できるテラスの上から、女性の声が鳴り響く。
タルキウスが視線を上に向けるとそこには、怜悧な美貌を持つ二十代半ばくらいの女性の姿があった。
「何だ貴様は?」
「恐れながら、人の邸を訪ねておいて何だとは如何なものかしら?」
タルキウスを前にしてもまったく臆しないこの女性の名はユグニア。エルトリアの名門家系の令嬢である。
その時だった。四方から突如、青白く輝く鎖を手にした男達が現れ、目にも止まらぬ俊敏な動きでタルキウスを取り囲む。
手にした鎖でタルキウスの身体を縛り上げ、最後に両足を縛って身体の自由を完全に奪う。
身体のバランスを崩したタルキウスはそのまま前から床に倒れ込む。
「う!……うぐッ!」
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