第30話 初めてのレベル上げ⑧

「改めて説明を聞いても、トウリの鑑定スキルは規格外だよねぇ」

「全くもって、その通りですね。鑑定スキル……いいえ、これは鑑定士の域を超越したものです」

「そんなことよりも! 五〇匹だよ、五〇匹! 俺のレベル上げは、これからどうなるんだよぉ」

「「……はぁ」」

「なんだよ、そのため息は!!」

 俺の悩みをなんだと思っているんだよ、二人は!

「いや、レベル上げは根気が必要な作業だから気づけば五〇匹なんてあっという間だよ」

「そうですよ、トウリさん。グウェインだってそれ以上の数を倒して——」

「その数って、レベル3に上がるために倒した数なんですか?」

「「……」」

「それだけ倒したら普通はもっとレベル上がりますよね?」

「「……」」

「何か言ってくださいよ!」

 そこでだんまりになられるともっと悲しくなるから! もう認めているようなものだからな!

「……トウリさん」

「……なんだい、アリーシャ?」

 真剣な面持ちでこちらを見つめてきたので、俺も姿勢を正して言葉を待つ。

「五〇匹必要なものは仕方がないんです! だったら、もっと建設的な話をしましょう!」

「結局無視するんかーい!!」

「これでは話が進みません! だから、今は無視して違う話をするんですよ! 大丈夫、グウェインが暇な時には毎回時間を作らせますから!」

「そうだよ、トウリ! 僕も協力する、だから根気よくレベル上げをしていこう! だから、今は別の話をするんだよ!」

 二人して……まあ、それも仕方ないことなのかもしれないなぁ。

「……はぁ。わかったよ。それで、やっぱり俺の鑑定スキルは規格外なのか?」

「「間違いありません!」」

「……そっか。まあ、俺もそんな気はしていたけどさぁ」

 しかし、そうなると俺の鑑定士【神眼】は本当になんなのだろうか。

 ……いや、待てよ。それを鑑定したらいいんじゃないのか?

「鑑定、鑑定士【神眼】について」

 …………あれ? 何も出てこない?

「どうですか、トウリさん?」

「いや、その、何も出てこないんだ」

「そうなの? 姉さん、鑑定が失敗する場合ってどういうことが考えられるの?」

「そうですねぇ……スキルレベルが足りていないものを鑑定した場合、もしくは鑑定に必要な魔力が足りていないか、そのどちらかですね」

 俺の場合はすでに鑑定スキルのレベルが10なので、レベルが足りていないわけがない。

 ということは、おのずと魔力が足りていないということになるのか。

「レベル2になったとはいえ、俺の魔力は30だもんなぁ。これじゃあ魔力が足りないって言われても……って、どうしたんだ、二人とも?」

 急に目を見開いた二人を見て、俺は首をかしげてしまう。

「……一度に20も上昇したんですか!?」

「えっと、そうだけど?」

「……姉さん、これはやっぱりそうじゃないかな?」

「……そうね、グウェイン。これはきっとそうよ」

「あの、二人だけで話を進めないでもらえないかなぁ?」

 何やら納得しているようだけど、俺にはさっぱりわからないんだが。

 そう思っていると、何度もうなずいていた二人が勢いよくこちらへ向き直り、同時に口を開いた。

「「鑑定士【神眼】は、やっぱり特級職だね!」」

 ……あー、そうなっちゃう感じ?

「まあ、能力が規格外すぎるし、そうなっちゃうよなぁ」

「それだけじゃないんですよ! 職業ランクが高い場合、レベルアップに必要な経験値がより多くなる傾向が見られるんです!」

「それに、レベルアップ時の能力の上がり幅がとても大きいんだ!」

「……でもそれって、レベルアップに時間が掛かるから結局は同じなんじゃないのか?」

「「全然違うから!!」」

 ……えっと、そんなに身を乗り出さないでくれるかな? 圧がすごいから、圧が。

「初級職と特級職では同レベルでもその実力には雲泥の差が表れるんですよ!」

「レベルアップに時間は掛かるけど、それを補って余りある能力差なんだからな!」

「……そ、そうなんだ。なんかごめん」

 あまりの圧に俺は謝る以外の選択肢を選ぶことができなかった。

 しかし、俺が謝ったからか二人は徐々に冷静になってくれて、小さく息を吐きながら腰掛けた。

「……ごめん、トウリ」

「私もすみませんでした。ですが、本当にすごいことなんですから、関係ないみたいに言わないでくださいね?」

「わかったよ。二人とも、真剣に考えてくれているんだもんな」

 俺はラノベ知識がありすぎるあまり、自分の考えに固執しすぎていたのかもしれない。

 この世界の常識が、俺の知識にピッタリと当てはまるはずもないのだ。

「トウリさんはまず、鑑定スキルで何ができるのかを把握する必要があるかもしれませんね」

「とりあえず、今わかっていることをまとめてみるのはどうかな?」

 ふむ、確かにそれは一理あるな。

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