第23話 初めてのレベル上げ①

 遅い時間に眠った俺だったが、不思議なもので目覚めばっちり、気力にも満ちあふれている。

 なぜかといえばもちろん、レベル上げをすることができるからだ!

 異世界に来ていきなり転移させられ、しばらくは魔獣から逃げる日々が続いたからなぁ……でも、そんな生活とも今日でおさらば、レベルを上げれば俺だって戦えるようになるんだもんな!

「……よし、これで準備はばっちりだ!」

 グウェインが見繕ってくれた軽鎧けいがいを身につけると、片手剣を腰に下げて左腕に小盾を取り付ける。

 鏡で見てみると、こんな姿に俺がなるなんてと不思議な感覚に襲われてしまう。

「……でも、これが現実なんだよな」

 改めて思うところはそこである。

 勇者召喚に追放イベント、そこから魔の森での生活……は正直いらなかったけど、ここまできたら忘れてしまってもいいくらいだ。

「——トウリー、準備はできたかーい?」

「今行くよー!」

 廊下からグウェインの呼ぶ声がしたので最後にもう一度だけ自分の姿を確認した俺は、ドアを開けて廊下に出る。

 そこにはアリーシャもいて、俺の姿を見ると微笑ほほえんでくれた。

「とってもお似合いですね、トウリさん!」

「ありがとう、アリーシャ」

「それじゃあ早速出発しようか。向かう先は北の草原だよ」

 魔の森が南だから、真逆になるのか。

 今の俺にとっては普通の魔獣も脅威になるので当然ではある。

 とはいえ、やはり高揚感があるのは否めない。

「よし、頑張るぞーっ!」

「「おぉぉーっ!」」

 こうして俺は、ドキドキで楽しみな、初めての魔獣討伐に出発したのだった。


※※※


 ——前言撤回! 楽しみとか言ってごめんなさい! もうそんなことは言いませんから!

『フゴオオオオオオオオッ!』

「ほらっ! こいつはもう動けないから、早くとどめを刺すんだ!」

「そ、そんなこと言われても、めっちゃ凶暴なんですけど!」

 そう、魔獣はとっても怖かったのです! 魔の森の外でも、本当に怖いんですよ!

 それもこれも、グウェインの指導方針によるものなんだけどね!

「甘やかすわけにはいかないんだ!」

「そうだけど、俺はレベル1の鑑定士なんだって知っているよな!」

「僕が手を加えすぎると、経験値がトウリにいかないんだってことも言ったよね!」

『フゴオオッ! フゴオオオオオオオオッ!』

 うぅぅ、こんなの、いつものグウェインじゃないよ!

 普段の柔和な表情はどこへやら、いざ魔獣と相対した瞬間から表情が一変したんだよなぁ。

 視線が鋭くなり、剣を構える姿は格好いいんだけど、言葉使いまで荒々しく変わっちゃったもんだからおびえちゃったんだよ……俺が。

 そして、俺の目の前では足を斬られて身動きが取れなくなっているいのししに似た魔獣——鑑定ではブルファングと出ているが、そいつが口元から突き出ている牙を振り回している。

 近づいて攻撃したいんだが、動けないなりに体をひねりながら向きを変えてくるので、なかなか近づけないでいる。

「……もう、仕方ないなぁ。経験値が入らなくなっても知らないよ?」

 尻込みしている俺に業を煮やしたのか、グウェインは目にも留まらぬ速さで駆け出すと、手にしている直剣をすれ違いざまに振り抜いてブルファングの牙を斬り落とした。

 足を斬られ、さらには牙をも失ったことで戦意を喪失したのか、ブルファングは姿を見せてから初めて大人しくなったように見える。

「……い、いいのか?」

「止めを刺して!」

「ひいっ! わ、わかったよ! やればいいんだろ、やれば!」

 ゴクリと唾を飲み込みながら、ゆっくりと近づいていく。

 ブルファングは大人しくしているが、その瞳は俺をじーっと見ている。……すきあらばみつこうって魂胆じゃねぇだろうなぁ。

「さっさとする!」

「は、はいっ!」

 鬼教官になったグウェインに逆らうことができず、俺は覚悟を決めて一歩ずつ近づいていくと、ブルファングの首めがけて片手剣を振り下ろした。

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