第22話 本当によくある勇者召喚㉑

 目を覚ますとすでに日は落ちており、俺は慌ててリビングに向かった。

 しかし、その途中で足が止まってしまう。

「……おぉっ! なんだこりゃあ!!」

 思わず声をあげると、リビングからアリーシャと訓練を終えていたグウェインが顔を出した。

「よくお休みになられたみたいですね、トウリさん」

「おはよう、トウリ」

「あぁ、おはよう。……って、そうじゃないよ! これ、これはいったい何なんだ!」

 階段を下りた先のエントランス。そこに並んでいたのは、俺がラノベの世界でしか知らなかった武具防具の数々だった。

 剣、槍、おのつえが床に並べられており、よろいだって壁側に立てられている。

 これを見て興奮しない男子はいないはずだ。

「兵士に配給されるものだけど、僕の方でトウリに合いそうなものを一通り選んで持ってきたんだ」

 グウェイン、グッジョブ!

 俺は真っ先に武具の方へ目を向ける。

 剣だけでも長剣や短剣があり、槍にも様々な長さのものがある。とても巨大な戦斧せんぷなんてものもあるが……さすがにこれは無理だな。

 それでも見ているだけで気分が高揚してしまうのだから不思議なものである。

「トウリの体格だと、こっちの剣か槍がいいかもしれないね。盾もあるから、剣を選ぶなら一緒に見た方がいいかな」

「剣がいい! あと、盾は持つタイプじゃなくて腕に取り付けられるタイプがいい!」

「そうか、それなら……これなんかどうかな?」

 グウェインが見繕ってくれたのは、剣身が50センチほどの片手剣と、腕に取り付けるタイプで丸い形の小盾だ。

 俺は片手剣を抜いて剣身を見つめると、新品の光沢が美しくて見惚れてしまう。

 小盾も腕に付けてみたのだが重くもなく軽くもなく、ちょうど良い重さでしっくりくる。

「……トウリ、剣を握ったことがあるのかい?」

「いや、初めてだよ。俺のいた世界では武器を持つ機会なんてなかったからね」

「そうなんだ……不思議だな、とても様になっているよ」

「そ、そうかな」

 少しだけ照れてしまった俺は片手剣をさやに納めると、気持ちを高揚させたまま鎧へ目を向ける。

 さすがに全身甲冑かっちゅうは無理がある。着てしまったが最後、動けなくなるからだ。

 そうなると、俺に合いそうなのは……うん、これかな。

「この軽鎧けいがいがいいかも」

「そうだね。トウリにぴったりだと思うよ」

 グウェインから太鼓判を押してもらったところで、俺は改めて確認する。

「なあ、グウェイン。これ、本当に借りてもいいのか?」

「借りる? いやいや、これは僕からのプレゼントだよ」

「えっ! ……い、いいのか?」

「もちろんだよ。でも、ちゃんとそれなりの成果でお返ししてよね」

 グウェインは満面の笑みを浮かべてそう答えてくれた。

「ありがとう、グウェイン! 俺、レベル上げ頑張るよ!」

「期待しているからね、トウリ」

「レベル上げにはいつから向かわれますか?」

 隣で微笑みながら様子を見ていたアリーシャからの質問に、俺は興奮冷めやらぬ状態で答えた。

「明日からでも行きたい!」

「うふふ。楽しそうですね、トウリさん」

「あー……いや、まあ、そうだな。俺、楽しいのかも」

 自分でもわかるくらいに、たぶんニヤニヤしている。

「明日なら僕も時間を作れるし、問題ないよ」

「助かる!」

「それじゃあ今日は、晩ご飯を食べたらすぐに休みましょうか」

「トウリは寝られるかなぁ。ずっと寝ていたんだろう?」

「寝るよ! すぐに寝てもいいくらいだからな!」

 遠足が楽しみな子供じゃあるまいし、寝られるに決まっているじゃないか!

 その後、俺は二人と一緒に晩ご飯を食べ終わると、すぐに部屋へ戻ってベッドに飛び込んだ。

「…………どうしよう、寝られない!」

 結局、俺が寝つけたのは日付が変わってからだいぶあとのことだった。

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