第21話 本当によくある勇者召喚⑳

 とはいえ、なんの理由もなくそう口にしたわけではない。

「もしかしたら、俺と同じように魔の森へ転移させられる異世界人がいるかもしれないから、なるべく安全に魔の森を抜けられるルートを教えられたらなって思ったんだ」

「……ですが、今回はトウリさんが鑑定士【神眼】という特殊な職業だったからこそ生き残れただけで、他の初級職の方ではいくら異世界人とはいえすぐに殺されてしまうかと」

 アリーシャの意見はもっともだが、それでも俺はできるだけ多くの異世界人を救いたい。

 生き残れる可能性が低くても、その確率を少しでも引き上げられるのなら行動しておきたいのだ。

「転移魔法陣が移動することはないと思うから、そこにここが魔の森だということを説明する看板を立てて、それに一時的に能力が上がる果物がある場所も一緒に書いておくんだよ」

「ですが、それだと辿り着けるかは運任せってことですよね?」

「まあね。本当はグランザウォールと連絡が取れる道具とかがあればいいんだけど、あるかな?」

「ないですね。むしろ、そんな魔導具みたいなものがあったら私たちが使いたいくらいです」

 俺のいた世界ではスマホがあったんだけど、今はそれを言っても始まらないか。

「だから看板なんだ。壊されてもいいように立てておいて、レベルの高い兵士や冒険者に依頼して時折見回りをしてもらう。残っていればそのままでいいし、壊れていれば再度立て直す。仮に異世界人が生きてグランザウォールに辿り着ければ、ここはもっと発展すると思わないか?」

 転移してくる異世界人は初級職のレベル1がほとんどだろう。

 だが、そのレベルを上げさえすれば初級職とはいえ異世界人の格段に上がりやすい能力値が、職業のハンデを補ってくれるはず。

 ……まあ、この仮定には俺の能力値が上がってほしいという願望も含まれているんだが。

「……興味深い話ですが、今の内容では難しいと思います」

「そうか? 俺が鑑定すれば魔獣を避けて通れるし、いけそうな気もするんだけどなぁ」

 実績はあるし、何より安全に看板の設置と確認を行えるんだから。

「それは一理ありますが、そもそも一時的に能力を上げる果物については簡単に情報を出せませんので、ダメなんですよ」

「あー……そうだったわ」

 うーん、看板設置に関してはしっかりと案を練り上げないと無理そうだな。

 とはいえ、諦めるつもりもないので一人で地道に考えておくとするか。

「それと、もしやるとするならばトウリさんのレベル上げも必須になります。鑑定スキルが規格外なのはわかりましたけど、絶対に安全なんて保証はどこにもないんですからね」

 うん、それも同感だわ。

 実際のところ、俺は鑑定士【神眼】についてまだまだ知らないことが多すぎるわけで、レベル上げをしながら色々と検証もしていきたいところである。

「そういえば、アリーシャの鑑定スキルはレベル5なんだよな?」

「そうですよ。初級職の鑑定職としては、これが限界でもあるんですけどね」

「えっ、そうなのか? 限界ってレベル10じゃないの?」

 俺が驚いて声をあげると、アリーシャは苦笑しながら理由を教えてくれた。

「鑑定職にも初級職から上級職まであるんですが、鑑定士ではレベル5が限界と言われています」

「それじゃあ、レベル10は?」

「確かにレベル10が最大レベルですけど、そこまで上げた人を聞いたことはありません。上級職の鑑定職でも、私が聞いた中ではレベル9が最高だったはずですよ」

 ……なんてこった。俺は初級職でありながら、レベル10になっていたのか。

「そういえば、トウリさんの鑑定スキルのレベルはいくつなんですか? 普通はレベル1からなんですけど、まれに高いレベルを与えられる人もいると聞いたことがあるんですよ」

「あー……えっとー……レベル10……です」

「……はい? ……すみません、また聞き間違えてしまったみたいです。もう一度いいですか?」

「……レベル10です」

「……最大レベルじゃないですか!?」

 えぇ、その通りです、カンストしているのです。

「でも、最初から鑑定スキルはレベル10でしたよ?」

「……もう、トウリさんが神様に見えてきました」

「なぜですか!」

「なぜも何も、さっきも言いましたが上級職の鑑定職でもレベル9が最高なんです! それがいきなりレベル10って……なんていうかもう、トウリさんは特級職なんじゃないですか?」

 いやいや、まさか、それはさすがにないだろう。

 もしそうだったなら、俺は今ここにいないはずだし。

 ……いやまあ、あんな王様の下で働くとか絶対に嫌だし、追放に関して文句は言えないけど。

「それじゃあですよ? 仮に俺が特級職の鑑定士だとして、レベルが上がった時の能力値の上昇は結構なものになりますかね?」

「……正直、わかりません。特級職になんてなかなか出会えませんからね」

 俺ってもしかすると、特級職のクラスメイトと同じくらい貴重な存在だったのかもしれない。

 しかし、それなら俺はこの力を使って自由を堪能するべきだろう。

「……頭の整理をしたいので、一度部屋に戻ります」

「そうですね。少し駆け足になってしまいましたね」

 アリーシャに断りを入れると、リビングをあとにして部屋へ戻り、そのままベッドへ横になる。

 頭の整理をしようと思っていたのだが、予想以上に疲れていたのか、俺は気づかないうちに眠りに落ちてしまっていた。

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