第20話 本当によくある勇者召喚⑲

 そのまま異世界人を先祖に持つ者が治めているという国を聞いたのだが……やはり、一ヶ所だけではなく複数あった。

 聞いただけでは覚えられそうもないので、俺は次の話題へ移ることにした。

「それにしても、アデルリード国の国土はあまり大きくはないんですね。これだと、他の国から攻められたらひとたまりもないんじゃ?」

 地図を見て思ったことは、この質問に尽きる。

 他国に比べてアデルリード国はとても小さく、魔の森以外では二つの国と隣接している。

「隣接している二国とアデルリード国は同盟を結んでいますから大丈夫ですよ。それに、わざわざアデルリード国を滅ぼそうとは思っていないはずです」

「そうなのか?」

 俺は思わず問い返してしまったが、その理由は至極単純なものだった。

「魔の森に対するアデルリード国の防衛都市がグランザウォールであるように、各国から見たアデルリード国が防衛国だということです」

「……要は、魔の森の管理をしたくないってことか?」

「その通りです」

 いや、笑顔でその通りと言われてもなぁ。

 確かに魔獣の相手をしたがる国はないだろうし、管理したがる国もないだろう。

 しかし、そうなるとアリーシャが言っていたことともだいぶ繋がってくるな。

「管理はしたくないが、もしも能力が一時的にでも上がる果物の情報が漏れてしまえば、魔の森を奪いたくなる国も出てくるってことか」

「大正解です」

 情報は武器にもなるって本当だな、こりゃ。

「そういう事情もあって、アデルリード国は今のところ周辺国とは同盟を結んでいるので、滅ぼされるといった心配はないんですよ」

 アリーシャがそう言うなら間違いないのだろう。

 俺は一度イスに腰掛けると大きく息をつき、冷めてしまった紅茶を口に含んだ。

「うふふ、知識を詰め込みすぎましたか?」

「そうだな、少しだけ疲れたみたいだ」

「それじゃあ一度休憩にしましょうか。ちょうどおやつの時間ですしね」

 そう言ったアリーシャはリビングから離れていった。

 俺は一人になったこともあり、知識の整理をすることにした。

 アデルリード国にいる間はあいつらと顔を合わせることはないだろう。シュリーデン王も俺は死んだものと思っているだろうし、俺が転移させられた事実は隠されるだろうからな。

 俺から会いに行けばシュリーデン王の悪事を公にできるが、それを信じる者がいるかどうかも疑問だし、そもそもシュリーデン国に行けるかがわからない。

 ならば当初の予定通りに、この世界を満喫することにしよう。そうでなければ勿体ないし。

「……それにしても、魔の森かぁ」

 調査が全く進んでおらず、さらに地図の三分の一を占めている面積はとても魅力的である。

 魔の森の調査をすることが異世界を——この世界を満喫することに繋がるかもしれない。

 そう考えた俺は、この世界での目標を一つ定めることにした。

「よし、当面はレベル上げを行うけど、最終的には魔の森の調査と踏破だな。それに——」

 一人で考え頷いていると、アリーシャがおやつと淹れ直してくれた紅茶を手に戻ってきた。

 俺はおやつに手を伸ばし、そして紅茶を含みながら一つの提案を口にした。

「アリーシャ、俺は魔の森の入り口付近に転移させられたってことで間違いないよな?」

「そうですね。ステータス上昇の果物があっても、最奥付近から出てくるのは難しいかと」

 よしよし、俺にはその方が都合が良いってもんだ。

「一つ提案なんだが——魔の森に道案内の看板を設置してみないか?」

「……道案内の看板、ですか?」

 ……うん、まあ、いきなりだとそういう反応になるよね。

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