第19話 本当によくある勇者召喚⑱

 最初に話題へ挙げたのはこの世界の常識についてだ。

 まずは時間の流れについて。一年は三六〇日、一ヶ月は三〇日、一週間は七日、一日は二四時間ということで、ほぼ日本にいた頃と変わらないことがわかった。

 季節も三ヶ月ごとに移り変わり春夏秋冬がある。今の季節は春らしい。

 次の常識は通貨について。

 花瓶を鑑定した時にも気になったのだが、こちらも時間の流れと同じで日本とそこまでの大差はなく、単位が円からゼンスに変わるだけ。

 国によって平均月収は異なるものの、アデルリード国だと二〇万ゼンスから三〇万ゼンスらしい。

 お金の管理に関しては、しっかり稼げれば問題なさそうだな。

「最後は世界の立ち位置というか、国同士の関係性ですね」

 ここでアリーシャが立ち上がると、テーブルの半分を埋める大きさの地図を持ってきてくれた。

「アデルリード国がここで、隣接しているここが魔の森です」

「ここは世界でも真ん中寄りなんだな。それでここが魔の森……って、魔の森、広すぎないか!?」

 よくよく見ると真ん中寄りだと思っていたアデルリード国は世界の端っこにあり、魔の森が地図の三分の一を占めている。

 これだけ広い森から溢れてくる魔獣を押しどめているのだから、防衛都市の名は伊達だてではないということか。

「俺が転移させられた場所は、本当に入り口だったんだろうなぁ」

「だと思います。魔の森の調査は一〇分の一もできていないと言われていますから、それ以上奥に転移魔法陣を設置することができなかったのではないかと」

 あれだけ強い魔獣が現れるのだから、入り口であっても初級職でレベル1の異世界人が生き残れるはずがないと考えるのが普通だよな。

「それと……ここはトウリさんにとって嫌な記憶を思い出させる場所かもしれませんが、一応お伝えしておきます」

「なんです?」

 少し言いよどんだものの、アリーシャはアデルリード国から離れた逆側に位置する国を指差した。

「……まさか、ここが?」

「はい。こちらがトウリさんを召喚した国、シュリーデン国です」

 ……待て、待て待て! アデルリード国とシュリーデン国って結構離れていませんかねぇ! 間に国が二つもあるんですけど!

「こ、こんな遠くに転移させられたのか。ってか、できるものなのか?」

「転移というのは空間と空間をつなぐものですから、その間の距離は全く関係ないそうです。ただ、転移魔法は魔力を大量に消費するもので、距離が長くなるほど消費量も多くなる。なので、上級職以上のレベルが高い者にしか使えないと聞いたことがあります」

 俺にはあまり関係ないことなのだが、これだけ離れた場所になるとクラスメイトと顔を合わせる機会はほぼないだろうなぁ。

「……大丈夫ですか、トウリさん?」

「んっ? あぁ、大丈夫だよ。ちょっと他の人たちが心配になっただけだから」

「他の人たち……そういえば、勇者召喚はどれくらいの人数だったのですか?」

「どれくらいって、生徒と先生だから……俺を含めて三一人だな。そうそう、俺も聞きたかったんだけど、勇者召喚ってのは頻繁に行われることなのか?」

 そんなポンポンと召喚されていたら元の世界から人が消えてなくなるんじゃないかと思ったのだが、そうはならないようだ。

「いえ、それこそ転移魔法よりも膨大な魔力が必要となります。それに魔力だけではなく貴重な素材が必要だと聞いたことがありますから、そう簡単にはできないのではないかと」

「……まあ、それもそうか」

「それに、勇者召喚には危険も伴いますからね」

「危険なのか?」

 召喚された場所をパッと見ただけだが、危険があったようには見えなかったんだがなぁ。

「すぐにというわけではありません。将来的にということです」

「将来的に?」

「はい。召喚された異世界人が、トウリさんのようにいい人ばかりとは限りませんからね」

 俺がいい人かどうかはさておき、何が言いたいのかはわかった。

「強くなった異世界人が裏切る可能性もあるってことだな」

 俺の言葉に、アリーシャは無言で頷いた。

 能力値の上がり方はこの世界の人よりも大きいみたいだし、レベルが上がって誰よりも強くなれば権力を持ちたがる者が現れるかもしれない。

「実際に異世界人を先祖に持つ者が治めている国もありますからね」

 ……ほーら、言わんこっちゃない。

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