第18話 本当によくある勇者召喚⑰

 鑑定士は初級職であり、戦闘には向いていない職業だ。

 俺の前にここへ来た二人の先祖も、鑑定士だったからシュリーデン国から追放されたんだろう。

 しかし、グウェインが言っているのは具体的にはどういうことだろうか。

「ですがグウェイン、ご先祖様は特別だったからこそ鑑定士でも戦えたのですよ?」

「姉さん、姉さん。トウリはその特別なんだよ」

「……あっ! そ、そうでしたね」

「ん? どういうことですか?」

「異世界人は能力値の伸びが私たちよりも大きくなるんです」

 なるほどね。そういう話のラノベもあった気がする。

 それにしても、異世界人の鑑定士が魔獣と戦えるほどに成長するのであれば、初級職でもないクラスメイトや先生はどれだけ強くなるんだろう。

 ……まあ、そこはおいおい確認できるだろう。シュリーデン国も大事な戦力を簡単に殺すことはしないはずだし、戦場にもある程度レベルが上がってから送り出すはずだ。

「……どうされましたか?」

「いや、なんでもないです。それじゃあ、俺はレベルを上げればある程度は戦えるようになるかもしれないってことですよね?」

「可能性はあるかな。でも、魔の森じゃないとしても、今のトウリじゃあ瞬殺されるよ?」

「でもさ、見方を変えれば一匹でも倒せたら一気にレベルが上がるとも言えないか?」

 弱い敵をちまちま倒してレベル上げをするのも醍醐味だいごみだけど、こっちが弱いまま強い敵を討伐して一気に強くなるっていうのも面白い気がする。……というか、俺はそっちの方が好みだ。

「それじゃあ、レベル上げには僕が付き添ってあげるよ」

「いいのか、グウェイン?」

「外出には僕か姉さんの同行が必要だって言っただろう? レベル上げなら僕が適任さ」

「……悔しいけど、その通りね」

 いや、何が悔しいんだろうか。

「夜までにはトウリが身につけられそうな装備を取り揃えておくよ」

「マジで! めっちゃ楽しみだよ、ありがとう!」

 おぉっ! 日本では絶対に手にすることができなかったファンタジー世界の武具防具たち!

 まさか実際に自分が手に取り、それを振るう時が来るなんて思いもしなかったなぁ。

「僕はこれから訓練に参加しなきゃいけないからそろそろ出るけど、今日はどうするの?」

「外も見てみたいけど、まだまだわからないことばかりだからなぁ」

「そ、それでしたら、私が色々と教えてあげましょうか?」

「アリーシャさんに時間があるならお願いしたいんだけど、いいかな?」

「もちろんです!」

 うれしそうに笑ったアリーシャさんを見て、俺は思わずドキッとしてしまった。

 美人からふいに向けられる笑みの破壊力、半端ないなぁ。

「それじゃあ僕は行くね。トウリ、姉さんに何かやられたらちゃんと報告してくれよ?」

「な、何もしないわよ!」

「あはは! それじゃあ、いってきます!」

 軽くアリーシャさんをからかいながら、グウェインは屋敷をあとにした。

「まったく! ……あぁ、すみませんでした、マヒロさん」

 頬を膨らませながら怒っていたアリーシャさんが俺の存在に気づき、恥ずかしそうにしている。

 ……うんうん、美人は恥じらっている姿も絵になるなぁ。

「俺は全然構いませんよ、アリーシャさん」

 そう伝えたのだが……なぜだろう、不満を浮かべているような顔に見えるのは。

「……あ、あの、マヒロさん?」

「なんですか?」

「その……わ、私も、トウリさんとお呼びしていいでしょうか!」

 ……はい?

「……全然構いませんけど?」

「ほ、本当ですか!」

「はい」

「そ、それじゃあ、私のことはアリーシャとお呼びください! 敬語もなしで!」

「えぇっ!? いや、それはさすがに無理がありますよ! だって、領主様ですよ!」

「構いません! アリーシャとお呼びください! アリーシャと!!」

 …………こりゃダメだ。

「わかった、わかったよ!」

「あ、ありがとうございます! うふふ!」

 呼び捨てにされて何が嬉しいんだろう。この世界では呼び捨てが流行はやっているのか?

「あっ! す、すみません! それじゃあ、何を知りたいのか教えてもらえますか?」

 そこからは俺の質問にアリーシャが答えてくれる流れとなった。

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