第24話 初めてのレベル上げ②

 ——ブヨンッ!


「……へっ?」

「……はっ?」

『……フゴッ?』

 俺もグウェインも、ブルファングですらとんきょうな声をあげて驚いている。

 ……えっと、俺の片手剣、ブルファングの皮膚に跳ね返されました。

『……フゴオオオオオオオオッ!』

「ぎゃああああっ!」

「はあっ!」

 ブルファングが俺に噛みつこうと体を捻った直後、グウェインの直剣がひらめきブルファングの首を落としていた。

 目の前に立っていた俺はその光景を見てグウェインに憧れを抱く——なんてことはなく、むしろ溢れ出した血しぶきを浴びてげんなりしてしまう。

「……な、なんで倒せないんだよ、トウリ!」

「……レベル1なんで、すみません」

「だからって跳ね返されるなんて……跳ね、返される……ぶふっ!」

「ひ、ひどいなあ! 笑うことないだろう!」

「だって、初めて見たんだから、仕方ないって!」

 グウェインがひとしきり爆笑すると、気を取り直してレベル上げにいそしむことにした。

 先ほどのブルファングだが、グウェインが止めを刺したので当然だが俺に経験値は入っていない。

 そして、今の俺ではブルファングの皮膚を斬り裂くことができないと判明したので、より弱い魔獣を探すことになった。

「鑑定、ブルファングより弱い魔獣」

 こういう時、俺の鑑定スキルは非常に役に立つ。

 魔の森で魔獣を検索していたように、ここでも魔獣の検索は可能だ。条件をつければその通りに鑑定してくれるのだから、無駄に歩き回らずに済んでいる。

「本当に便利だよね。僕たちも魔獣狩りをローテーションでやっているんだけど、根気よく歩き回って魔獣を狩るんだよ」

「うわー。どこにいるかもわからない相手を探すのって、面倒だよなぁ」

 そんな会話をしていると、鑑定が終わったのかディスプレイ画面に魔獣が表示された。

 この辺りのマップと合わせて出てきてくれたので、俺はグウェインに声を掛けて歩き出す。

「あっちの方にブルファングじゃない魔獣……あぁ、ミニファング? がいるみたいだな」

「ミニファングか。ということは、親のブルファングもいるんじゃないかな?」

「確かにブルファングも近くにいるけど……って、ミニファングってブルファングの子供か?」

「そうだよ。まだ子供だからブルファングよりも弱いし、トウリにはピッタリかもね」

 俺でも倒せるような魔獣だと、一匹狩るだけではレベルは上がらないかもしれないな。

 強い魔獣を倒して一気にレベルアップ! ……はできなくなったけど、一つひとつ積み重ねてのレベル上げにも楽しみはあるのだから贅沢ぜいたくは言えないか。

「よーし、色々な魔獣を倒して、レベルを上げるぞ!」

 そう意気込んいると、ミニファングがいる場所に到着した。

 しかし、俺の気合いは瞬く間に霧散してしまう。

「……ほわぁぁ。あれが、ミニファングなのかぁぁ?」

 ブルファングよりも明らかに小さく、うり坊に似た姿のミニファングが地面に生えている草をむしゃむしゃと食べている。

 俺はその愛らしさに笑みが止まらず、草を食べている姿をジーッと茂みの中から眺めていた。

「成長したらブルファングになるんだ、今のうちに倒してしまおう」

「そ、そんな! あんなに可愛かわいらしいうり坊を殺すのか!」

「いやいや、あれはミニファングだからね? 大きくなったらブルファングになるんだよ?」

「くっ! ブル……ファング……」

 ……そうだ、あのうり坊はミニファングで、魔獣なんだ! どれだけ可愛い見た目をしていたとしても殺さなければならない……可愛らしくても……くうっ!

「可愛いなあ!」

「ちょっと! 大声を出さないでよ!」

『プヒッ!?』

 あぁ……俺の声を聞いたうり坊が、少し先にある林の中に逃げてしまった。

「……ま、まあ、うり坊を殺すなんてかわいそうすぎてできな——」

「逃げるよ、トウリ!」

「えっ、なんで? うり坊ならもういないけど?」

「違う! 来るんだよ——親が!」

「……親?」


 ——ズドドドドドドドドッ!


 グウェインが口にしたのとほぼ同じタイミングで、林の方からものすごい足音が聞こえてきた。

 俺は慌てて足音の主を鑑定すると、案内にはブルファングの文字が二つも現れた。

「……ま、待ってくれよ、グウェイーン!」

「もう! トウリのせいだからねー!」

「ご、ごめんなさーい!」

 結局、今日は魔獣を一匹も狩ることができずにレベルは1のまま。

 初めてのレベル上げは、ほろ苦い経験になってしまった。

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