第14話 本当によくある勇者召喚⑬

 ぼそりとそんなことをつぶやくと、グウェインが思い出したかのように口を開いた。

「そうだ! トウリの鑑定は視覚に捉えていなくてもできるんだったよね」

「そうだね。抽象的な言葉での鑑定でも、それがどこにあるのかまで教えてもらえるよ」

「試しにやってみてもらってもいいかな?」

「……どういうこと?」

 話を聞くと、グウェインはリビングに来る前にとある物を屋敷の中に隠したのだとか。それを見つけることができれば、その能力の使い方を色々と考えることもできるのではないかと言ってくれたのだ。

「面白そうだな、やってみるか」

 俺がその提案に乗ると、グウェインは隠したものの特徴を教えてくれた。

 形はやや三角形、紫色で色の濃い部分と薄い部分があり、丸めると手のひらに収まる。

 うーん、ここまで抽象的な内容で鑑定スキルを使ったことがないから案内が出るかわからないけど……一つだけ項目を付け足してみるか。

「鑑定、やや三角形で紫色、色の濃い薄いがあって、丸めると手のひらサイズで、この屋敷の中にあるもの」

 ……案内が、出たな。しかも、一つだけ。

「えっと、動いてもいいのかな?」

「うん、大丈夫だよ」

「グウェインは何を隠したの?」

「ふふふ、内緒だよ、姉さん」

 アリーシャさんもわからないのか。

 とりあえず俺はイスから立ち上がると、案内に従って移動を開始する。

 リビングを出て、そのまま二階に上がり廊下を進んでいくと、一つの部屋の前に到着した。

「ちょっと、グウェイン! あなた、私の部屋に勝手に入ったの?」

「入ってないよ。隠したっていうのはうそ、姉さんの部屋にあるものの特徴を口にしただけなんだ」

「私の部屋に? ……そんなものあったかしら?」

「えっと、アリーシャさん、入っていいのかな?」

「はい、大丈夫ですよ」

 さすがに女性の部屋へ勝手に入るわけにもいかず断りを入れると、アリーシャさんが部屋のドアを開けてくれた。

 そのまま入室を促されたので案内に従って歩いていくと、目の前には腰くらいの高さしかないタンスだろうか、そこへと案内された。

「……この中を示していますね」

「開けてみてよ」

「……はあ」

「……ねえ、グウェイン。いったいなんなのか教えてくれても……って、ダメエエエエッ!」

「え?」

 ドアの前で鑑定の品が何かを考えていてこちらを見ていなかったアリーシャさんが叫んだ。だが時すでに遅く、俺はタンスの一番下の引き出しを開けてしまっていた。

 そして、中に入っていたのは——

「……む、紫色の、パン——」

「ぎゃああああっ!」

「それ、姉さんの勝負下——」

「早く閉めてくださいマヒロさん!」

「はい!」

「グウェインはちょっとこっちに来なさい! 今すぐに!」

「あははー、それじゃあまたあとでね、トウリー!」

「マヒロさんはイスに座って待っていてください!」

 首根っこをつかまれたまま引きずられていったグウェインは笑顔で手を振っていた。

 勢いよくドアが閉められると、俺は横目でタンスの一番下を見てしまう。

 ——バンッ!

「もう絶対に開けないでくださいね!」

「は、はい! もちろんであります!」

 ——バンッ!

 再びドアが開かれてものすごい形相でそう言われると、さらに強い力で閉められた。

 ……こ、怖かったよおおおおおおぉぉっ!

 その後、しばらく二人は戻ってこなかった。

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