第13話 本当によくある勇者召喚⑫

※※※


 翌日、目を覚ました俺は久しぶりに体の疲れが抜けたように感じられた。

 昨日あれだけの全力疾走をしたにもかかわらず、筋肉痛の一つもしていないのには驚きだ。

 俺は二人が用意してくれた洋服に袖を通すと、一度鏡で全身を確認する。

「……おおぉぉぉぉ、ファンタジーな洋服だなぁ」

 白シャツに臙脂えんじのジャケットを羽織り、パンツは紺色で動きやすさ重視って感じだな。

 腰に巻いてみたストールみたいなのはオシャレ用なのかな? ……まあ、格好いいからいいけど。

 一通り眺め終わった俺は、グウェインに言われた通りテーブルに置かれていたベルを鳴らす。

 ほどなくしてアリーシャさんが姿を見せてくれた。

「おはようございます、マヒロさん」

「あれ? お、おはようございます、アリーシャさん」

 まさか領主であるアリーシャさんが姿を見せるとは思わなかった。

そのまま挨拶を交わすと、俺たちはリビングへ向かう。

 そこにはすでにグウェインもいて、俺の姿を見ると手を振ってくれたので振り返す。

「どうやら、仲良くなれたみたいですね」

「ふふふ、すでにグウェインと桃李で呼び合う仲ですよ」

「そうだよね、トウリ」

 俺がそう言うと、なぜかアリーシャさんの歩くスピードが速くなりさっさと席に着いてしまった。

 何か気に障ることでもしただろうかと思いながらも、俺はアリーシャさんの隣の、食器が置かれている席に座る。

「そうだ、ご両親はいないんですか? 二人にはお世話になっているし、挨拶をしたいんだけど」

 食事の前にそう口にすると、二人は顔を見合わせて困ったように口を開いた。

「実は、私たちの両親は五年前に亡くなっているんです」

「魔の森から魔獣があふれ出したことがあって、その時にね」

「そうだったんだ……その、すみません」

 嫌なことを聞いてしまったと思い謝ると、二人は首を横に振ったあとに笑みを見せてくれた。

「マヒロさんが謝ることじゃありません。事実ですし、グランザウォールを守り抜いた両親を、私たちは誇らしく思っていますから」

「その通り。だからこそ、先祖と同郷のトウリのことを放っておくこともできなかったんだ」

「……そっか。二人とも、改めてになるけど、本当にありがとう」

 少しばかり辛気臭くなってしまったが、俺は朝ご飯を堪能させてもらった。

 料理はアリーシャさんが作っているようで、美味おいしいと言ったらとても喜んでいた。

「大きな屋敷ですが、使用人の方とかはいないんですか?」

「両親の生前にはいたのですが、亡くなるとすぐに出ていってしまったんです」

「えっ! それって恩をあだで返すみたいなものじゃないの?」

「まあ、ここは防衛都市ですからね。常に魔獣の危険に晒されているようなものですし、私たちのような未熟者が都市を治めるとなれば、出ていきたくもなりますよ」

「いや、僕もそこはトウリと同意見だな。僕たちが未熟であることは否定しないけど、できれば一緒にグランザウォールを支えてほしかったよ」

 あきらめているようなアリーシャさんと、悔しそうにしているグウェイン。二人の表情を見ているとすでにいっぱいいっぱいなんじゃないかと思えてならない。

「新しく誰かを雇おうとは思わなかったんですか?」

「大きな屋敷ですし考えたんですが、何にお金が必要になるかわかりませんでしたから」

「できることは自分たちでやろうって、二人で決めたんだ」

 二人はものすごくしっかりしているんだなぁ。

 そんな二人のために何かしてあげたいけど、俺では力になれることがないのも事実。

 防衛都市というからには魔獣が国土に入るのを防いでいるのだろう。魔の森を警戒する役割がグランザウォールにはあるはずだ。

 となれば、鑑定士の俺では力不足。そもそも戦えないのだから。

「……俺に力があればなぁ」

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