第12話 本当によくある勇者召喚⑪

 鑑定士と知った途端に取り付く島もなくあしらわれてしまい【神眼】については誰も知らないこと、そして部屋に入るや否や転移で魔の森に追放されたのだと。

「……確認ですが、マヒロさんを召喚したのはシュリーデン国で間違いありませんか?」

「間違いないと思います。王様っぽい人がシュリーデン国って言っていたし、宰相っぽい人もシュリーデン国の状況について説明していたので。……あれ? そういえば、グランザウォールってどこにあるんですか? シュリーデン国?」

 アリーシャさんの確認に俺は素直に答えたのだが、追放させられたとはいえここがシュリーデン国内である可能性もゼロではない。

 先ほどの言い回しだと違うと思いたいが、もしそうであれば俺が生きていると突き出されるかもしれないのだ。

「いいえ、ここはシュリーデン国ではありません。ここはアデルリード国、その国土でも辺境に位置する防衛都市です」

「アデルリード国ですか。……俺、突き出されたりしませんよね?」

「そんなことはしませんから!」

「異世界人がご先祖様の僕たちですよ!」

「……そ、そうですよね、すみません、ちょっと不安になっていたみたいです」

 人と出会えてホッとしたら、途端に不安が押し寄せてきた。

 よく考えれば二人が俺を突き出す理由もないし、グウェインさんが言ってくれたみたいに先祖が異世界人なわけだから、同郷人を突き出すなんて真似はしないと信じたい。

「……マヒロさん、まだ早いですが休まれますか? 部屋は余っておりますし、グランザウォールにいる間は私たちの屋敷で面倒を見ますよ?」

「そうですよ。僕も力になれると思いますから」

 ……うぅぅ、この世界に来て初めて頼れる人に出会えた気がする。

「本当にありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

「まだわからないことの方が多いと思いますが、まずは休んで明日から教えていきますね」

「それじゃあ僕が案内します」

「お願いします、グウェインさん」

 立ち上がった俺はアリーシャさんに頭を下げてリビングを出た。

 そのままグウェインさんの案内で空いている部屋に入ると、そこは王城で案内された部屋とは段違いにきれいにされた素晴らしい部屋だった。

「何かあればこのベルを鳴らしてください。僕か姉さんが来ますからね」

「本当に何から何までありがとうございます、グウェインさん」

「……あの、マヒロさん。よければなんですが、僕のことはグウェインと呼んでくれませんか? それに敬語も不要で」

 年上に呼び捨てはダメだと思っていたのだが、グウェインさんからの頼みなら問題はないかな。

「……わかった。それじゃあ、俺のことも桃李って呼んでよ。俺のいた世界だと、桃李の方が名前になるからさ」

「トウリ……うん、ありがとう、トウリ!」

 満面の笑みを浮かべたグウェインは、軽く手を振り部屋を出ていった。

 その笑顔はとても輝いており、光を反射する金髪も相まって男同士でも見み

れてしまいそうになるほどだった。

「……寝よう。うん、今日は寝よう」

 俺はポケットからぶどうを取り出すと、テーブルに置かれていた何も入っていない小皿に入れてベッドへ横になる。

 久しぶりのふかふかベッドに感動していると、昨日と同じように一分としないうちに深い眠りについたのだった。

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