第11話 本当によくある勇者召喚⑩

 そして、このタイミングで屋敷の扉が開いたのか、鈴の音が玄関の方から聞こえてきた。

「——あれ? お客さんなの、姉さん?」

 リビングに顔をのぞかせたのは、ヤマトさんと同じ鮮やかな金髪と美しい金眼、俺と同い年か少し上といった感じに見える長身の男性だった。

「おかえりなさい、グウェイン。マヒロさん、紹介しますね。私の弟でグウェイン・ヤマトです」

 かっちりとした服装で、白を基調とした軍人さんの礼装みたいな作りだなぁ。

「グウェインです、よろしくお願いします」

「あ、はい。俺は真広桃李といいます。あー……こっちでは、トウリ・マヒロになるのかな?」

 俺がどう名乗っていいものか考えていると、ヤマトさん……えぇい、どっちもヤマトだからグウェインさんか! 彼は何度もまばたきを繰り返したあと、何かを察したのか差し出した俺の手をガシッと力強く握ってきた。

「マヒロさん、あなただったんですね! 兵士たちの間でもうわさになっていたんです!」

「えっと、まあ、はい、そうです」

「あぁ、無事で本当によかったです。まさか、また魔の森からの生還者が現れるなんて。これはご先祖様の墓前に報告をしないと!」

「ちょっとグウェイン、落ち着きなさい。マヒロさんが困っているわよ」

 ……よく言ってくれました、アリーシャさん。

「あっ! ご、ごめんなさい、マヒロさん!」

「いや、全然構いません。俺の方こそ、いきなりお邪魔してしまってすみません」

 パッと手を離したグウェインさんは申し訳なさそうに頭を下げており、俺の方も頭を下げる。

 ……しかし、イケメンだなぁ。身長も高いし、何より体格ががっしりしている。

 アリーシャさんは鑑定士ってことだけど、グウェインさんの職業も気になるところだな。

「マヒロさんも鑑定士なの。だから、簡単なことを教えていたのよ」

「そうなんだ。……すごい、ご先祖様と同じだなんて、運命を感じますね」

「……ご先祖様と一緒?」

 驚きの発言に俺が聞き返すと、アリーシャさんが理由を説明してくれた。

「実は、私たちの先祖である異世界人の方も鑑定士だったんですよ」

「えっ! そうなんですか?」

「そうなんです! これはもう運命ですね! うんうん、本当によかったですよ、マヒロさん!」

 お、おぉぅ。なんだろう、グウェインさんは熱い人なんだろうか。

 しかし、どうしてアリーシャさんは俺の鑑定士【神眼】について何も言わなかったんだろう。

 気になってアリーシャさんに視線を向けると、なぜかウインクをされてしまった。

 ……あっ、そうか。

 アリーシャさんに教えたのは情報を知るためであり仕方のないことだったが、【神眼】がおかしな表示だということに気づいた今では、誰に情報を伝えるかを俺は選ぶことができる。

 そこを考慮して、実の弟であるグウェインさんの前では口にしなかったのだ。

「……グウェインさん、一つだけいいですか?」

「はい! なんでしょうか!」

 元気よく返事をしてくれたグウェインさんに、俺は【神眼】と表示されていることを説明した。

 すると、先ほどまでの元気の良さは影を潜め、その代わりに真剣な面持ちで俺の話に耳を傾けだした。そして、最後まで聞き終わるとゆっくりと俺からアリーシャさんへ視線を向けた。

「……本当なの?」

「本当よ。私の口から勝手に伝えていい情報ではなかったから伝えなかったの、ごめんね」

「これは姉さんの判断が正しいよ。だけど、マヒロさんはどうして僕に教えてくれたんですか?」

「アリーシャさんもそうだけど、グウェインさんからも悪い印象を感じなかったからかな」

 正直に伝えると、今度は呆気あっけに取られたような表情をされてしまった。

「……ありがたいですが、もっと慎重になってくださいね?」

「……えっと、なんかすみません」

 とりあえず謝ったところで、話は本題に戻っていった。

「それにしても、【神眼】か。これ、僕たちが最初に知ることができてよかったかもしれないね」

「……そうね。というか、マヒロさんを召喚した人はどうして追放したのかしら」

「あー、それはですねぇ——」

 俺はここで初めて王城でのやり取りについて説明した。

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