第10話 本当によくある勇者召喚⑨

 予想はしていたけど、ヤマトさんのリアクションではっきりしたな。

「やっぱり、おかしいことなんですね」

「……少なくとも、私は聞いたことがありません。一応、私も鑑定士なので」

 どうやら兵士たちの話していたことは本当だったようだ。

「ヤマトさんは最初、俺のことを鑑定して敵ではないと判断したんですか?」

「その通りです。ですが、すべてを鑑定できるわけではありませんよ」

「そうなんですか? ……あの、よければ俺に鑑定士がどういったことをできるか教えてもらえませんか? 召喚された当日にいきなり転移させられたので、何も聞かされていないんですよね」

 わからないことを考えても仕方がないと割り切り、俺が苦笑交じりでそう口にすると、ヤマトさんも似たような笑みを浮かべながら口を開いた。

「鑑定士というのは、簡単に言うと目の前にある物体がどのようなもので、どういった状態にあるのかを視覚的に見ることができる職業のことです。試しにこちらの花瓶を鑑定してみてください」

 言われるがまま、俺はテーブルの上に置かれた花瓶に鑑定を掛けてみると、300ゼンスという表示が出てきた。

「……ゼンス? この世界の通貨ですか?」

「……えっと、そうなんですが……あれ? うーん……うん?」

「……ヤマトさん?」

 なぜか黙り込んでしまったヤマトさんに声を掛けると、彼女はハッとした様子で口を開いた。

「あっ! も、申し訳ございません、マヒロさん!」

「いえ、構わないんですが……何かおかしなことでもありましたか?」

「その……マヒロさんの右目に現れた魔力のような、モノクルのようなもの……それはいったいなんですか?」

 ……えっと、これが普通ではないのかな?

「鑑定を使う時に出てくるんですけど……普通は出ないんですか?」

「……出ないです。私は見たことがありません」

 魔力? ……魔力がモノクルのように見えるってことかな?

 しかし……どうしよう、さっきからヤマトさんが困惑してばかりだ。

「……は、話を進めましょうか」

「……あっ、はい。そうですね」

 とりあえず【神眼】が一般的ではなくおかしいということはわかったので、それでよしとしよう。

「……と、とりあえず、まずは鑑定士についてですね」

 ヤマトさんによる説明は、俺がラノベで得た知識と大きく変わることはなかった。

 名前、状態、品質、それらを視覚的に——今回の場合でいうとディスプレイ画面から文字として見ることができる。

 魔の森にいた俺の場合はもっぱら食べ物と魔獣の鑑定ばかりだった。

 食べ物だと名前、食べ頃かどうか、品質のし。

 魔獣だと名前、レベル、各スキルや能力値、個体によっては注意事項も表示されていた。

 鑑定する対象によって表示される項目も変わるようなので、花瓶を鑑定した時に金額表示が出たのはそういうことだったのだ。

「鑑定をするには物体を視覚に捉えていなければできないのと、戦闘ではほとんど活躍できない職業ということもあり初級職になっています」

 ……ん? 視覚に捉えていないとできない?

「ヤマトさん。俺の鑑定は視覚に捉えていなくても鑑定ができてしまうんですが、それはどうしてだと思いますか?」

「……そんな話、聞いたことがないですよ。マヒロさん、本当に視覚に捉えていなくても鑑定ができてしまうんですか?」

「は、はい。そのおかげで俺は生き残れたと言っても過言ではないですから」

 食べ物の場所も、魔獣の居場所も、そして一時的に能力が上がる果物も、すべて鑑定スキルが案内してくれたのだ。

 あの案内がなければ魔の森で魔獣に喰く われて死んでいただろうし、今考えるとゾッとしてしまう。

「……これは間違いなく、ただの初級職ではないと思います」

「ですよねぇ。そうじゃないと、絶対に死んでいただろうし」

「すみません、お役に立てなくて」

「いや、全然構いませんよ! むしろ、助けていただけて感謝しているんですから!」

 結局、鑑定士【神眼】についてはわからずじまいだったが、俺は鑑定士という職業について知ることができたので満足していた。

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