第5話 本当によくある勇者召喚④

 俺は魔獣の強さも鑑定スキルで把握している。

 正直、能力を上げたからといってすぐに倒せるような魔獣はいなかった。

 どいつもこいつもレベルが50とか60とか、桁が違いすぎるのだ。

 各能力値も三桁超えしかおらず、中には四桁を超える魔獣もいたくらいだ。

「やっぱり、速さを上げて戦法をするしかないよな」

 果物は五種類あり、それぞれで上がる能力が異なっている。

 赤色でりんごのような果物は筋力。

 緑色でマスカットのような果物は耐久力。

 紫色でぶどうのような果物は速さ。

 黄色でバナナのような果物は魔力。

 だいだい色でみかんのような果物は器用。

 運が上がる果物はなかったが、そもそも運の能力値は100あるので上げる必要はないと思う。というか、何に影響しているんだろうか。

 それはさておき、俺はこの果物でどれくらい能力が上がるのか確認するためにぶどうをもぎ取り食べてみた。

「……うん……これは…… 美味うまい!」

 ……はっ! 危ない、危ない。味を堪能している場合じゃなかった。

 俺はぶどうを一粒食べ終わると、ステータスを開いて速さの能力値を見てみる。

「……おぉっ! 5だったのが10になっている!」

 そして、腕時計を見ながらどれほど継続されるのかも確認だ。

 ……三〇秒……一分……二分…………ほほう、五分経つと元に戻ったな。

 次に複数食べた時の上がり方を検証する。

「これ、ぶどうだからいいけど、りんごとかみかんとかバナナだと、食べるのに苦労しそうだな」

 そんなことを考えながらぶどうを二粒食べてステータスを確認する。

 すると、5だった能力値が15に上がり、そのまま時間を計ると同様に五分で元に戻った。

 速さが上がる果物がぶどうだったことに感謝しながら、俺は他の果物も食べてみた。

 味は見た目そのままなのだが、どれも甘くて濃厚な味わいが楽しめる果物で大満足だ。

「……あれ? 魔力と器用だけが10から20に上がってるな」

 単純に5の単位で能力値が上がるというわけではなさそうだ。

 魔力や器用の上がり方を見ると能力値が倍になる果物なのかと考えたが、それだと一粒で5から10、二粒で10から20になるのではないか。

 そうなっていないということは……元の能力値から二倍、三倍と上がっていると考えれば二つ食べて速さが5から15になったことの説明はできる。

 そして、複数の能力を同時に上げることも可能なようで、こちらも五分で元に戻る。

「うーん、検証はまだまだ必要かもしれないけど、基本的に五分間だけ上昇すると思っておけばいいのかな?」

 食べてから上がった能力値を確認する、そして五分で魔獣の群れを突破して人里へ向かう。危険な賭けであることに変わりはないが、それ以外に選択肢がない。

「人里に出たら、鑑定士【神眼】を活かして自由気ままな異世界生活を送るんだからな!」

 俺はそう決意すると、不思議と大木の周辺には魔獣がいないことに気がついた。

 今までは偶然見つけた洞窟で怯おびえながら夜を明かしていたけど、ここなら安心して眠ることができるかもしれない。

 それにぶどうを近くに置いておけば、もしもの時にも一気に食べて逃げ出せるだろう。

「ふわあぁぁ……眠い」

 やることが決まった途端に眠気が襲ってきた。

 お腹もいっぱいになったし、魔獣がいないとわかって安心感も出たからだろう。

「うーん、夜は魔獣が活発化しているし、決行するなら朝一だな。今日はもう寝るとして……動くのは明日……から…………ぐぅー」

 相当疲れがまっていたのだろう、俺はいつの間にか大木にもたれ掛かったまま寝てしまった。

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