第90話 その事は突然に


少し時間の流れが速くなります。


―――――


 私鏡京子


 今年三月位までには明人との同棲を両親に認めさせ一緒に住もうと思っていたけど、一条さんが思いのほか明人への執着が強く実現できなかった。

 他の大学に行ったので明人との距離は開くと思っていたのだけど。


 今年年初に明人の家に行って強行突破を図ろうとしたけどそれも出来なかった。最後の手段は有るけど、それはまだ先。一条さんも大学は出たいだろう。


 今日も塾が終われば明人が私のマンションに来る。彼からの連絡を待っていた。


 テーブルに置いてあったスマホが震えた。明人かな?


 画面を見るとお父様からだ。なんだろう?

『はい京子です』

『京子か、今度こっちに帰って来る時間無いか?』

『無理に都合付ければ出来るけど、私も三年になって授業も忙しい。簡単には都合が付きません。それより私に何か用事でも出来たのですか?』


『帰って来てから話したい』

『分かりました。それでは日にちを調整します』

 私は電話を切ると、お父様からの話というのはどうせ大した事はないだろう思っていた。だけど時期が中途半端だ。




 私は六月の終りに実家に帰った。

「ただいま」


お母様が直ぐに玄関に出て来た。


「お帰り京子」


 半年ぶりの実家だ。自分の部屋で部屋着に着替えてからリビングに行くとお父様が待っていた。


「お帰り京子」

「ただいま、お父様」


「京子、東京での生活はどうだ。あの男とはまだ付き合っているのか?」

「お父様、どういうお考えで明人の事を言っているか分かりませんが、彼を

あの男と呼ぶような言い方は絶対にやめて下さい。私の大切な人です」


「そうか、大切な人か…」



 お母様もリビングに来た。

「実はな、お前に会って欲しい人がいるんだが」

「会って欲しい人?」

「ああ、私の勤めている大学病院の医院長の息子さんだ」

「…………」


「京子も知っている通り私は外科部長の立場だ。当然ながら次の医院長選には出るつもりだ。

 だが当然ライバルもいる。内科部長だ。そこで医院長の息子を…」


「お父様、自分の出世の為に娘を売ろうなんて最低な人間にいつからなり下がったのですか。

 私の知っているお父様は、毅然としてどんな問題にでも立ち向かう方でした。そのお父様が自分の出世の為に私を犠牲にしようとするなんて。

 今から東京に帰ります」


「待ちなさい京子。お父様の言う事を最後まで聞きなさい」

「お母様…」


「京子、医院長の息子と結婚してくれと言っている訳じゃない。息子さんは、お前と同じ大学で昨年卒業して今年医師免許を取ったばかりの小僧だ。

 私も大事な娘をそんな男に嫁がせようとは思っていない。ただ会って仲良くしてくれればと思っている」


「お父様、詭弁です。その延長にはお父様の医院長の椅子とその後のその人の椅子がラインで引かれているんですよね。その為にいずれは私がその人と結婚する事が条件なのでしょう」


「いや、今はそこまで考えていない。使い物にならない男かもしれないからな」

「嫌です。私は明人、水森明人さん以外の人とお付き合いどころか口を利く気もありません」

「京子、会ってみるだけでもいいのよ」

「それはなし崩しに物事を進める一歩です。私は東京に戻ります」


「京子待ちなさい。あなたもうこの話は止しましょう。せっかく京子が帰って来てくれたんです。京子もお母さんの料理を食べて」

「…分かりましたお母様。お父様言い過ぎました。でもその人と会う事はしません」



 私は自分の部屋に一度戻った。

 冗談じゃないわ。明人以外の男なんて興味もない。でもお母様の悲しい顔は見たくないし、お料理は食べたいから今日は泊まることにしよう。

 そうだ、こんな時は明人に電話しよ



 ブルル。ブルル。


『はい』

『明人、京子』

『どうしたんですか。今はご実家ですよね』

『うん、ちょっと明人の声を聞きたくなって』

『明日朝早く帰るから会えないかな』

『明日の授業は午後二コマ有りますが、午前中ならアパートに居ます』

『じゃあ、明日朝一番で帰るから待っていて』

『分かりました』



…………。



京子の両親の会話


「京子は思いのほかあの男に入れ込んでいるな」

「仕方ないですわ。高校三年生の時に一目ぼれした方ですから。それ以来彼の事ばかりです」

「おまえは知っていたのか?」

「少しですが、京子の雰囲気が変わったのでそれとなく聞いてみました」

「雰囲気が変わった?」

「ふふっ、男の人には分からない事ですよ」

「…………」


「しかし困ったな。せめて会ってくれる位いいと思うがな」

「あなた、相手の方は二十五才、京子は今年二十一才ですよ。京子なら意味が直ぐに分かります。相手の方もそれなりの方がいるのでないですか。無理強いしても双方に良くない方向に行くと思いますけど」

「…………」




 私は、翌日朝一番の特急で東京に帰った。自分のマンションには帰らずに明人のアパートに行って体を温めた。


 精神的にストレスが溜まり過ぎていたので事情を明人にしっかりと話した。聞いて貰えるだけも少しは気が軽くなる。




「明人、私はあなただけ。どんな人が近寄って来ても貴方しか見ない。絶対あなただけ」

 京子さんが真剣な目で俺を見て来ている。


 去年のクリスマス位から彼女の俺に対する接し方が変わった。前は俺に対して年上として理解ある包容力のある女性として接していたが、最近は一人の女の子として必死に俺に縋りついて来ている感じだ。紗耶香と同じように。


 どうすればいいのか。ますます分からなくなって来た。


―――――

 

 京子さんの周りの変化、どうなるんでしょう。


 次回をお楽しみに


 新作の投稿を始めました。読んで頂ければ幸いです。

「寝取られた元カノ?、知らない許嫁、陽キャな幼馴染も皆要らない。俺の望みは平穏な高校生活だ!」

https://kakuyomu.jp/works/16817139555364588255


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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