第86話 クリスマスイブイブとクリスマスイブ


いつもより少し長いです。


―――――

 

クリスマスイブイブ


 俺水森明人、今日塾のバイトの後、京子さんのマンションに来ている。


クリスマスディナーなのか、ローストチキン、キャビアやレモン、サーモンを乗せたクラッカー、ルッコラ、モッツアレラチーズ、スライストマトを挟んだサラダ、それにバケットがスライスされてテーブルに並んだ。


「凄いですね。これ全部京子さんが、一人で用意したんですか?」

「他に誰がいるというの。明人の為に午前中から仕込んだのよ」

「すみません。嬉しいです」

「ふふっ、明人、ちょっと早いけどクリスマスディナーを用意したの、あなたは未成年だからアップルシードル、私はワインを少し頂くわ」



 どの料理もとても美味しかった。食事が終わり、食器洗いをと言っても拭くだけだけど手伝っていると


「なんか私達新婚みたいね。明人に手伝って貰うのも悪くないかしら」

「食べさせて貰っているので手伝うのは当たり前です」

「いいのよ。そんな事気にしないで。家事は妻の役目よ。大好きな人の為ならそれも楽しい事だもの」

 何でそこまで俺の事を。分からなくなって来た。


 片付けも終わり、リビングで二人で寛いでいると、いつもの様に俺の足の上に乗っている京子さんが俺の顔をじっと見ながら


「明日から二日間、一条さんと一緒なのよね。最初の頃は我慢出来たけど最近彼女に対する焼餅や嫉妬が胸の中に少しずつだけど出て来たの。

 明人、あなたが彼女と直ぐに別れるのは厳しいと思うけど、私を優先してくれない?」

「今でも俺はそのつもりですけど」

「顔に違いますって書いて有るわ。まだ決められないとも。でもね。私も女の子よ、自分の大好きな人が他の女性と一緒に居るのは苦しいわ」


 前はまるで俺と紗耶香が付き合っている事を面白がっていたように見えたけど、最近この人の俺に対する気持ちの表し方が変わって来たような気がする。

 そろそろ決めないといけないのかな?



「京子さん、もし俺があなたを選ばなかったら?」

「その考えそのものを消して。明人の心の中から消して!そんな言葉聞きたくない!」

 思い切り俺の肩に顔を乗せて抱き締めて来た。


「京子さん」

「明人、お願い。私は明人がいなかったら自分が生きる価値を見出せない。死ぬしかないの」

 何故ここまで?分からない。


「ねえ、本当よ。もしあなたが彼女を選んだらその日に私は‥‥」

「もういいです。それ以上言わないで下さい」


 その日の京子さんは激しかった。何かを求めるかのように。



…………。




 クリスマスイブ


 次の朝、ベッドの中で目が覚めると甘い匂いと柔らかい感触そして優しい寝顔が横に有った。まるで昨日の夜の事が嘘の様に。


 俺は、もう一度シャワーを浴びようと起き上がろうとすると


「明人、行かないで」

「えっ!」

「お願いだから行かないで」

「京子さん。昨日言われた事はよく考えます。でも今日は行きます」

「明人…」




 俺は京子さんの家でシャワーを浴びるのを止めて自分のアパートに帰った。そしてシャワーを浴びて着替えると紗耶香のマンションに向おうとしてドアを開けた。


 京子さんが立っていた。デニムジーンズに厚手のニットセーター、白いコートを着ていた。

 京子さんからすれば結構ラフだ。急いで来たんだろう。


「明人、明日の夜は帰って来て。お願いだから」

「…分かりました」

 

 俺はそのままドアにカギを掛けて部屋を出た。一階まで京子さんと一緒に降りると彼女が、

「行ってらっしゃい、明人」

 めちゃくちゃ寂しそうな顔をしていた。



 これから紗耶香に会いに行くというのに頭の中がぐちゃぐちゃで整理付かない。こんな状態で彼女に会ったら…。もう京子さんと付き合っているという事は知っているが、俺の方がおかしくなる。

 



 紗耶香には午前十時頃行くと言ってある。まだ九時前だ。駅のコーヒーショップで頭を冷やす事にした。


 何で京子さんはあそこまで俺の事を。前に言われた俺が好きな理由、あれでさえ理解出来ないのに昨日といいさっきの言葉といい…。


 どうするか…。正則いや今泉さんの方が同じ女性だから分かるか。とにかくあの二人に相談してみるか。でも…。


 一応、正則達に相談するという事で、頭の整理を棚に上げた俺は紗耶香のマンションに行く事にした。




 なんとか、午前十時十分前に紗耶香のマンションについた。一階玄関のインターフォンを鳴らすと直ぐにドアが開いた。


 彼女の部屋の前でインターフォンを鳴らそうとするとドアが開いた。


「明人」

いきなり抱きしめられた。


「お、おい」

「ふふっ、いいじゃない。誰も見ていないわ」


 仕方なくそのままにしておいてあげると

「よし、エネルギー充填十パーセント。上がって」

 これで十パーセントか?!


「明人、コーヒー飲んで来た?」

 やっぱり分かるか。


「ああ、少し。朝起きたら頭が重くてさ」

「ふふっ、嘘でしょ。顔に書いて有るわよ」

「…………」


「まあ、いいわ。それよりコーヒーにする。それともわ・た・し」

「へっ?!」

「ふふっ、冗談よ。二人でゆっくりとコーヒー飲んだら出かけよ。表参道のイルミネーション綺麗らしいよ」

「でも、まだ朝だけど」


「明人、映画見て、昼食摂って買い物してイルミネーションを見ながら表参道を散歩だよ。それで夕食はレストランで。忘れたの?」

「いや、忘れて無いよ」

「本当?」

「今日は紗耶香の好きな物プレゼントするよ」

「ほんと、やったあ!」


 そう言えばレストラン予約頼んでおいたな。まあこの為にバイト始めたんだからな。今日はみんな俺が紗耶香にご馳走する。


 

 渋谷の道玄坂にある映画館で年末年始向けに公開されている映画をみた。SF物だけどとても面白かった。


 この手の映画は結構メジャーな俳優や女優から役への人気が高く、面白いからと役者さんの方からの逆オファーが多いらしい。




 そのまま、渋谷のセンター街で〇〇クを食べた。夕飯をプチリッチにしているので昼は簡単にしようという事になった。


 そして紗耶香へのプレゼント。これはちょっと頑張って表参道にあるショップ。

「紗耶香どれがいい」

「ちょ、ちょっと待って。どれも素敵で。でも明人値段が」

「いいんだ、今日の為に塾でバイトしていたんだから」


 ショーケースを見ていた紗耶香が俺の方に顔を向けて

「明人、嬉しい」

 そう言ってもう一度ショーケースに顔を向けた。


「明人これ良いかな」

 選んだのはネックレス。人工石と思うけどサファイヤが付いている。鎖はプラチナ。結構高いけど紗耶香が気に入った物を買おうと思っていた。


「いいよ」

「ほんと。嬉しい。ありがとう」


 お店の人が俺達を見て今付けますかと言ったので

「はい、俺が付けます」

 と言って紗耶香の首に前から回して付けてあげた。


「明人似合う」

「うん、ぴったりだよ。とても綺麗だ」

「ふふっ、嬉しいなあ。明人からこんな素敵なプレゼント貰えるなんて」


 ケースは必要だからとお店の人に言われ、持って帰る事にした。


 もう今の季節は午後四時を過ぎると暗くなって来る。今は午後六時。表参道の通りで待っていると一斉にイルミネーションが点灯した。


「うわぁ、綺麗、明人見て見て」

 紗耶香が、俺の腕をしっかりと両手で抱きながら目をキラキラして喜んでいる。俺も心が思い切り温まる。

 そのまま、ゆっくりとイルミネーションを見ながら二人で青山通りまで歩いた。


 紗耶香が予約した青山通にあるレストランはとても可愛くて、素敵な所だった。

「明人、嬉しい。こんな時間を一緒に過ごせるなんて」

「うん、俺も嬉しいよ」


 夕食後、紗耶香のマンションに帰った。




紗耶香のマンションに泊った次の朝、

「明人、今日も泊まれるよね」

「ごめん」

「…。鏡さんと会うの?」

「…。うん」


「ねえ、明人から鏡さんを好きと言った訳じゃないよね。付き合って欲しいって言った訳じゃないよね」

「それは間違いない」

「じゃあ、どうして。どうして私が今日も一緒に居たいというのに、あの人の所へ行くの?おかしいよ明人」


 本当は…。

「紗耶香、もう少し待って。はっきりさせるから」

「どうはっきりさせるの。私、私だよね」

「そのつもりだ」

「つもりって、どういう事?私じゃない場合もあるの」

「紗耶香、お願いだ。それ以上言わないでくれ」

「明人…」


 ごめん紗耶香。自分でどうしていいか分からないんだ。

 

 明人を改札まで見送った。

もう会えないかもしれないという不安だけが心に渦巻いた。


―――――

 

明人君、さてどうする?


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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