第77話 皆の夏休み その三
俺は、柏原さんからの指導も外れ自分で授業を担当する事になった。彼女とは講師控室で会うだけ。帰りも一緒にはまずならない。
塾に柏原さんがいる事を京子さんにも話したが、彼女は問題にしていない様だ。今日も授業が終わり、授業のレポート書いて帰ろうとすると
「水森君終わった?」
「ええ」
「君を待ってたんだ。一緒に帰ろうか」
「…………」
塾の中で変な噂は立てたくない。無言のうちに塾を出ると
「ねえ、同じ大学で同じ塾でバイトしているんだよ。偶には夕飯でも一緒にしない。お茶でもいいけど」
「俺急いでいるんで」
「えーっ、ねえお願いだから一回位一緒に夕飯食べようよ」
「なんで俺が柏原さんと一緒に夕飯食べないといけないんですか?」
柏原さんの顔が歪んだ。目から涙が出て来ると
「酷いよ、水森君。そんなに私の事嫌いなの。この大学だって君がいるから学部も変えた。塾だって私も君がいる事知らなかったけど一緒になれた。運が良いと思った。それなのに、酷いよ」
彼女の目から涙が思い切り溢れ出て来た。周りの通行人が何だ?という顔をして俺達を見ている。不味いな。仕方ない。
「分かったよ。ごめん言い過ぎた。とにかく泣き止んで、頼むから」
「水森君が私と夕飯食べてくれるって言ってくれたら」
まだ、泣いている。
「分かりました」
「本当!やったあ」
涙目で笑う顔がおかしかった。
「でも日にちは考えさせて」
「うん、いいよ。後、塾でそっけなくしないで。とても寂しくなる」
「分かりました」
「じゃあ、一緒に駅まで帰ろうか」
さっきの泣き顔もどこへやら、あっという間に笑顔になった。女子って凄い。
今日は、京子さんの部屋で夕飯を食べる予定だ。自分の部屋に一度戻ってから京子さんに電話した。
『明人です。今帰りました。これから行きます』
『うん、待ってる』
なんかおかしいな。こんなんで俺良いのかな。最近思う様になった。京子さんは俺を好きだという。俺はどうなんだ。彼女の事好きなのか。紗耶香は好きだ。はっきり言える。でも京子さんは?
彼女に引っ張られるままに来ているけど。彼女へ恋愛感情は…。自問している内に彼女の部屋に着いた。
ピンポーン。
ガチャ。
「明人いらっしゃい。待ってたわ。早く入って」
「はい」
「明人、何悩んでいるの?」
「何でもないです。あっ、一つ伝えたい事が」
俺は柏原さんとの事を話、夕飯を一緒に食べると約束した事を話した。紗耶香にも言わないと。
「…ふーん。彼女もやるわね。明人事情は分かったから会うのは仕方ないけど、会った日は必ず私の所に来て。約束して」
「分かりました」
これ以上柏原さんを明人に近寄らせる訳にはいかない。明人は彼女に興味無いはずだけど、彼女から強引に関係を持ってくる可能性もある。その為には夕飯後の事を阻止すればいい。
「明人、ご飯まだだから、お風呂に入って来て」
「いいですか。俺なんか手伝いますよ」
「ふふっ、いいの。明人の胃袋は私の愛情で一杯にしてあげる」
俺は湯船に浸かりながら
慣れてしまった。京子さんの部屋のお風呂に入る事も。俺の洗面グッズや下着までそろえられている。食器も当然俺の分が用意されている。完全に形を整えられている。
さっきの自問。俺は京子さんをどう思っているんだ。嫌いじゃない。むしろ好きだろう。でもそれって愛情か。嘘とも本当とも分からない。
京子さんの作る料理は上手かった。片付けを少しだけ手伝うと京子さんはお風呂に入った。
これで帰ろうと思わない俺自身がいる。この後する事も分かっている……。
考えても今は答えが出ない。時間が解決してくれるかもしれない。
京子さんがお風呂から出て来た。体にはバスタオル一枚だ。とてもいい匂いがする。
「明人、お待たせ」
ふふっ、明人は今悩んでいる。顔を見れば分かる。そんな事は私の体で忘れさせてあげればいい。
……………。
明人が横で寝ている。額に掛かった髪の毛を軽く持ち上げた。可愛い。私の明人。誰にも譲らない。
私は自分の一生をこの人に捧げる。それが私の気持ち。理由なんか要らない。私はこの人を初めて見た時からそう思った。
ゆっくりと彼の唇にキスをした。目は開けない。彼の肩に自分の顔をあずける様に抱き着くと
「明人、あなたは何も考えなくていい。これからもずっと私の側にいて。未来の旦那様♡」
翌朝、俺は目が覚めると京子さんが俺の右腕を枕にして寝ていた。彼女の顔をじっと見る。
整って均整の取れた美しい顔。柔らかく白い肌は絹の様だ。胸は大きく形が良い。スタイルも素晴らしいい。俺なんかよりもっと似合う人がいる様に思える。
でもこの人は俺を愛していると言ってくれている。一生を捧げるといっている。でも俺には紗耶香が。
考えるのはやっぱりやめよう。狡いのは分かっている。この人は俺が紗耶香と付き合っているを分かった上で、こうしている。そしていずれ自分の元に来て欲しいと。
俺にはまだ決断できない。
「うーん、あっ明人、目が覚めていたの」
「はい」
「私の寝顔ずっと見ていたの?」
「はい」
「そう」
この子は悩んでいる。止めさせないと。
「明人、もう一度ねっ」
ふふっ、堪らなく気持ちいい。
もう午後一時だ。俺が帰ろうとすると
「ねえ、明人なんで帰るの?夏休みでしょ」
「えっ、偶には部屋の掃除をしないと。洗濯物溜まっているし」
「そんな事、私が全部してあげる。だからもう少し居て」
「いや、でも」
「いいから」
何も決められないままに夏休みが過ぎて行った。
―――――
明人君、お疲れ様。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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