第56話 二学期になりました


 水森明人視点


 二学期になりクラスの人達の紗耶香に対する目はだいぶ優しくなって来た。前に有った汚物を見る目から同情の目やもう前の事と思っている目に変わって来ているのが良く分かる。柏原さん達も普通に話してくれる様になったのも大きい。彼女には感謝だ。


 でもBクラスの人達は紗耶香を見るとまだ汚物を見る様な目や腫物に近寄らない感じでいる。石原さん達は特に顕著だった。


 幸い陰口や悪い噂が流れてないだけまだましかもしれない。そんな噂なら正則や今泉さんが直ぐに教えてくれるから。


 その他のクラスの事は分からない。そもそも接点が無いからだ。


 夏休みの一日前に紗耶香の家に行った。紗耶香が来てと言ったので大丈夫かなと思っていたけど、やはりまだ心の整理が出来ていない様だ。


 最後の所で紗耶香が拒んだ。理由は分からない。俺的にはとても中途半端だけどしかたない。知識では知っているけどそんな事紗耶香に要求できないし。

翌日も会ったけど前日の事は忘れたように明るく振舞っていたのが気になった。


 二学期はイベントが山積みだが、二年の時ほどみんな盛り上がらない。この時期学校のイベントより勉強に重点を置く様になってきているからだ。運動部の人達も本格的に勉強してくる。


 鏡先輩には、週一回連絡する約束をしたが、特に変化も無いと言っている。紗耶香の事は心配なようで色々聞いて来たが。来週はあの人が来る。なんとも消化不良な気分だ。



………………。



 教室まで紗耶香と一緒に行き、自分達の机に向かう。残念ながら紗耶香と俺は一学期と同じ様に離れたままだ。


「水森君おはよ」

「おはよ柏原さん」

 じっと俺の顔を見ている。無視して紗耶香の所に行こうとすると


「待って、水森君、今日の昼休み、生徒会室に来て欲しいんだけど。理由は知っている通りよ」

「分かりました」

 それだけ言うと紗耶香の所に行った。


「明人、柏原さんなんて?」

「昼休み生徒会室に来てって。紗耶香も一緒だよ」

「…………」

 何も言わずに紗耶香が柏原さんを見ている。柏原さんは俺達の事は気にせずに近くにいる女子と話していた。



 

 昼休み、いつもの様に紗耶香と昼食を取り終わった後、

「紗耶香行こう」

「うん」

 

廊下に出ると紗耶香が小声で

「ごめんトイレに寄って行く。先に行っていてちょっと時間かかるから」

「分かった」


 明人が生徒会室に行く後姿を見ながら、こればかりは仕方ないよね。女の子なんだから。


コンコン。


「柏原生徒会長、来ましたよ」


 机に向かって何か作業をしていた彼女が

「あっ、水森君悪いわね。あれ一条さんは?」

「ちょっと用事があるみたいで先に来ました」

「そう、実はね。君に頼みたい事があるんだ」


「頼みたい事?」

「学園祭の時、私と一緒に巡回してくれないかな」

「はっ?!柏原さん、そういう事はしないって約束ですよ。それに学園祭の時は、俺はクラスでの役目有ります。あなただって知っているでしょう」


「クラスの件は私が話しつけるからいいわ。巡回して欲しいのは私のメンタル的な不安を君が一緒に居る事で落ち着かせて欲しいのよ」

「何言っているんですか。そういう事はしません」

「もちろん一条さんも一緒でいいわ」

 何考えいるんだ。この人?


 紗耶香が入って来た。おれの側に来ると今話した事を説明した。

「紗耶香だっていやだろう」

「…私良いよ。巡回」

「えっ?」

「だって、クラスの役割あまりしたくないし」


 俺達のクラスは、外でけんちん汁の模擬店をやる事になっている。紗耶香は売り子だ。俺は後ろで具材準備だ。何となく気持ちは分かるが。


「一条さんも賛成してくれているわ。決まりね水森君」

「…………」


 俺達は、生徒会室を出ると

「紗耶香、あんなの断れば良かったのに」

「明人、私売り子したくない。まだ嫌だよ。他のクラスの子も来るし」


 まだ、紗耶香の心にはあの事がしっかりと残っているんだ。だからあの時も拒んだのか。どうにか彼女の心の中から消せないものかな?



「生徒会長、上手くいきましたね」

「ええ、まさか一条さんがOKしてくれるとは思わなかったわ」


 これで水森君とは一歩前に進める。一学期は少しだけチャンス有るかなと思ったけど、思ったより早くあの事が水森君の耳入ってしまった。


 クラスの子が話をしなければ、水森君の心に入り込むことが出来たのだけど。仕方ない。このチャンスをうまく使うしかないか。




 学園祭直前に紗耶香と一緒に受けた第二回全統共通テスト模試の結果が帰って来た。俺はA判定だが、紗耶香はB判定だった。

「明人、私厳しいかな」

「まだ五か月ある。時間は十分だよ。一緒に行こう」

 紗耶香の点数ではちょっと厳しいけどまだ時間はある。何とかしたい。


「うん」

 明人はそう言ってくれているけど。都内の私立上位大学は、一応A判定を貰っている。




 直ぐに学園祭がやって来た。


「水森君、私達の巡回は午後一番だから、午前中は好きにしてていいわよ。後昼食は用意してあるからここで食べて。私はここにいないといけないから」

「分かりました。ありがとうございます。」

「紗耶香、じゃあ行くか」

「うん」



「紗耶香どこ行く?」

「あれ」

 彼女が指を差したのは二Cのお化け屋敷だ。


「えっ、あれ!良いけど」


 中に入ると紗耶香がしっかりと俺の腕を掴んで来た。

「明人こうすれば怖くない」


 知ってはいるが彼女の柔らかい部分が思い切り腕に当たっている。ちょっ、いや大分気になるが、仕方ない


「きゃーっ!」

 紗耶香が俺の腕をグイっと抱き絞めて来た。


「きゃーっ!」

 またまた、抱き絞めて来た。


 結局出るまでにその後三回も腕を抱き絞められ、結構理性厳しい。なんでだろ。こんな事でこんな気持ちになる事ないのに。


―――――

 

 柏原さん何を考えているの?


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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