第27話 学園祭二日目綾乃視点


 全体的に綾乃視点です。


――――――


 二日目は午前十一時から一時間の担当だ。今日は外部と言っても生徒関係者だけど朝から学園祭にやって来ている。


 朝から結構忙しい。

「高橋さん、もうちょっと多めにキャベツ切っておいて。お願いね」

「そこの男子、学食の冷蔵庫から豚肉後三百持って来ておいてよ」


 私に役割を言った武田さんが仕切っている。とても私には出来ない。朝から結構な売れ行きだ。

 キャベツを山の様に切ってボールに入れ、後ろに置いてあった水を飲んでいると、うん?

 何故かお客様の視線が私に向けられている。



武田さんが、

「高橋さん、盛付け手伝って。手が足りない」

「あっ、はい」


 急いで鉄板の方に回っていくと今まで盛付けをしていた女子が場所を退いた。なんで?

手が足りないんじゃなかったけ?

「高橋さん。三つ作って」

「はい」


その後も途切れなく

「はいーっ、二つご注文頂きました。高橋さん二つです」

「はい」

 少し人が多くなったような気がする。


 あっという間に一時間が過ぎた。

「高橋さんお疲れ。これ食べて」

武田さんが焼きそばとジュースを私に渡してくれた。


「やっぱり高橋さんだわ。あなたが盛付けになった途端、売れまくりよ。午後三時前に終わりそうね。今日はありがとう」

「はい、良かったです」


貰った焼きそばとジュースを手に昨日と違う場所のベンチに座った。また変な人が来ると嫌だから。


 焼きそばを食べていると

「あっ君、昨日も一人だったよね。ここ座っていい?」

「良いですけど」

 学校のベンチだ。空いていれば私が断る権利はない。座らせるのは当たり前だ。


 座った人を無視して体を別の方向に向けて食べていると

「今日も一人なの?」

「待合せています」

 本当は一人だけど。


「誰、彼氏?」

「あなたには関係ありません」

「ねえ、一緒に回らないか。俺も一人なんだ」

「待合せしていると言いましたけど」


「じゃあ、その人が来たら俺退くよ」


不味い、しつこい人だ。もうすぐ食べ終わってしまう。どうしよう。あっ、武田さんだ。こっち見て。


 視線が合った。困った顔をしていると近づいて来た。

「待ち人が来ました」

「えっ!」


 私はわざと手を振ってにこやかな顔をした。

「何だ、女子か。一緒でもいいよ」


 しつこい。仕方ない。私はベンチを立つと

「武田さんやっと来たのね。早く来てくれないから、変な人に声を掛けられて」


 私の顔を見てその男の顔を見ると

「済みません。この子は私と他の男子達と一緒にこれから見て回るんです」


 男がぶつぶつ言いながら去って行った。

「武田さん済みません。助かりました。昨日からあの人に声掛けられて」

「まあ高橋さんみたいな可愛い子が一人で居たら声掛けるよ。気を付けてね」

「ありがとうございます」


 武田さんは用事があるのか去って行ってしまった。どうしようかな。教室に戻って本でも読んでいようか。



 仕方なく教室で本を読んでいるとみんなが帰って来た。


「あれーっ、高橋さん。教室にいたの?誘えばよかったかな」

「いえ、ちょっと疲れちゃって」

「そうなの?」

 武田さんが声を掛けて来た。


 その後もぞろぞろと教室に帰ってきた。まだ終了には早いはずだけど?


「早く終わったな」

「ああ、具材が無くなってしまったからな。午前中で今日の大半を売り切ってしまったから」

「そうか、そんなに美味しかったのかな?」

「お前分かっていないな。武田さんのグループが半分以上売ってしまったんだよ」

「ああ、そういう訳か。まあ仕方ないか」



「ねえ白石、打ち上げ」

「そうだな。石原予約してあるか」

「当たり前でしょ。行く人だってもう決めているよ」

「じゃあ決まりだな」


 その内、学園祭のクラス担当委員が戻って来て、

「おーいみんな。売り上げ目標達成だ。生徒会に戻す原価分引いても打ち上げに回せるぞ」


「「「おーっ」」」



 私は誘われていない。当たり前だ。そのまま本を読んでいると担任の先生が入って来た。

「今日はこれで終わりだ。気を付けて帰るように」

 それだけ言うと教室を出て行ってしまった。


 教室の皆も打ち上げに行く人、行かない人に分かれてそそくさと帰っていく。私も帰るかな。



席を立とうとすると肩を叩かれた。

「高橋さん、ごめんね。今回の一番の功労者は高橋さんなんだけど」

「武田さん、それ聞いただけで十分です。私帰ります」

「うん、気を付けてね」


ちょっとだけ武田視点

 高橋さんには悪いけど誘えない。今の彼女が置かれた立場では仕方ない。

二年生でBクラスになった時、可愛い女の子がいた。直ぐに一年生の時図書室で公開告白された高橋綾乃だと分かった。


 見ていると私の嫌いな石原のグループや白石克己と仲が良い。特に白石とは恋人同士の様だ。確か彼氏はAクラスの水森君だったはず。


 一学期の中間テストの終わった辺りから石原や白石が高橋さんにそっけなくなって来た。たぶんなんかの理由でハブられたんだろう。


 教室の皆もそんな高橋さんに声を掛けるでもなく、相手するでもなく距離を置いている様だ。


 私も彼女とは縁が無いから無視していたけど、別に彼女が嫌いな訳ではない。男女の色恋なんて人の事。どうなっていようが私には関係ない。


 そんな時、学園祭で仕方なく一緒になった。初日は裏方で具材準備させていたけど、買いに来た人がみんな、高橋さんを見ている。


 二日目も同じだ。これはと思い、フロントで盛り付けさせてみたら、お客様が来るわ来るわ、やはり可愛いというのは売り上げにとって最大の武器だ。


 今回の件で少しだけクラスの人が彼女を見る目が変わった。まあ、彼女の事を知らない奴がまたくっ付くだろう。彼女は可愛いから。


…………。

戻ります。


 ちょっとだけ心の中が穏やかになった。二学期に入って全くクラスのみんなから無視されていると思ったけど武田さんが声を掛けて来てくれた。それだけで十分だ。これで今年の学園祭も楽しい気持ちで終われる。




 家に帰ると

「ただいま」

「お帰りなさい。綾乃。今日は遅いと思っていたんだけど?」

「なんで?」

「明人君と一緒かなと思って。そう言えば一学期のGW過ぎ位から彼のお弁当作って行かないわよね。最近うちにも来なくなったし」

「明人とクラスも別なったし。だからお弁当一緒に食べれないんだ。今日もクラスの人達と用事あるみたいだし」

「そうなの。それは寂しいわね」

「もう自分の部屋に行く」

「夕食になったら呼ぶわね」


 家に帰って来るまで心が穏やかだったのに。お母さんが明人の事言うから。

そのままベッドに座り込んだ。


 明人、もう駄目なのかな。一所懸命謝ったら許してくれる?

最近していない。ちょっと苦しい。どうしよう。


―――――


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。




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