第8話 周りの変化
「明人、見てこれ」
俺に見せたのは、返却本の貸出シートと一緒にいれてある告白のメモだ。
「今日だけで五枚よ。嫌になる。明人との事もっと知ってもらう事出来ないかな」
生徒が帰った図書室で綾乃がメモを見ながら呟いた。
「仕方ないよ。綾乃可愛いし。でも嫌だな」
「明人も思うでしょ」
「ところでそのメモどうするの?」
「無視に決まっている。こんなのにいちいち会っていたら体がいくつ有っても足りないから」
「そうか」
俺達はいつもの様に校門から手を繋いで帰る。GW前はそうでもなかったが、今は俺に対する男子の視線が痛い。
最近は、改札で別れても綾乃の家がある駅まで付きまとう生徒がいるかもしれないのでそこまでは送って行く事にしている。
綾乃の家のある駅で一度一緒に降りると
「明人ありがとう。じゃあまた明日ね」
「うん、また明日」
俺は改札を出ないで綾乃の姿が見えなくなるまで見送るとホームに戻った。
参ったな。綾乃には言えないけどGWのコンタクトの件が無ければこんな事無かったんだけど。俺だけの綾乃だったのに。
家に戻ると俺はそのまま自分の部屋に行った。
ガチャ。
「明人、ただいまも言わないでどうしたの?」
「姉ちゃんか。ただいま」
「ただいまは玄関で言いなさいよ」
「分かった。ところで俺に何か用?」
「別に、顔が疲れているわよ。彼女の事なら相談乗るけど?」
「姉ちゃん彼氏いるの?」
「まあね。先輩として乗ってあげる」
「いらない」
「そう」
姉ちゃんはそのまま扉を閉めた。顔に出ているのは不味いな。綾乃も分かっていたのかな。
本当はもっと静かに綾乃と過ごすつもりだったのに。高校に入ったらこんなになるなんて。
でも綾乃変わった感じ。前は人と話すのも抵抗が有った子なのに。
周りの変化は有ったけど綾乃と俺の関係は変わらなかった。
「明人、見てこれ」
二人で朝登校して下駄箱で履き替えていると綾乃がメモを見せた。
「まったく、私が図書委員だって知らない人ね。無視しよう」
「そうだな。君が図書委員だって事結構有名だから」
「えっ、どういう事?」
「男の子の間では綾乃が図書委員だって廊下で話していた奴がいてさ」
「ふーん。そう言う事か。ところでもうすぐ学期末テストだよ。一緒に勉強しよ」
「もちろんだよ」
中間テストも一緒に勉強をして成績順位も良かった。綾乃が三位で俺が十一位。まずまずだ。でも綾乃的には三位と言うのは許せないらしいけど。
そんな事話している内に教室に着いた。
俺は自分の席に着くと右斜め前に座る正則が声を掛けて来た。
「おはよ明人」
「正則おはよ」
正則はテニス部に入部してメキメキ頭角を現している。正則の彼女今泉薫がマネージャをしている事も大きいのだろう。
「なあ、明人。期末試験も終わると夏休みだ。何か予定入っているか?」
「なにも」
「じゃあ一緒にプール行こうぜ」
「えっ、プール!いやそれは綾乃に聞かないと」
「分かった」
昼休み、
「綾乃、正則達がプール行きたいんだった。どうする」
「プールですか~」
綾乃はスタイルが自慢にも良い訳ではない。俺にとっては申し分ないが、やはり人前で水着になるのは抵抗があるのだろう。
「今泉さんも一緒しょ?」
「もちろんよ」
今泉さんが会話に入って来た。
「高橋さん、一緒に行こう。四人だったらいいでしょう」
「明人いいだろう」
分かったこいつら二人で行くのが不味いから俺達を誘ったな。
「明人どうする?」
「なんだ、俺の返事待ち?」
「「「そう」」」
「分かった行くか」
ここは仕方ない。
「でもいつ行くんだ。出来れば八月に入ってからの方が良いんだが」
「なんで?」
「先に夏休みの宿題片付けたい」
「おっ、それは良い考えだ。俺も一緒に!」
「お前は今泉さんと一緒でいいだろう」
「ねえ、水森君は高橋さんと一緒でしょ。えへへ、だから私も一緒で」
「お前ら、それが目的か!」
こいつらの魂胆が見えて来た。正則も今泉も成績は中の中だ。プールに誘う、でもその前に夏休みの宿題を俺達の力で楽しようって訳か。全く。
「まあまあ、俺ら四人同中じゃないか。宿題一緒に仲良くやろうぜ」
「綾乃どうする?」
「明人が良ければいいよ」
「しょうがない。でも何処でやるんだ」
じーっ!!!
「俺の家かよ」
「いやー、俺の家、兄妹がいてうるさいし」
「私んち狭い」
「明人いいでしょ」
「綾乃もか。全く。でも毎日は俺んちもきついぞ。正則の家は広いじゃないか。何とかしろ」
「じゃあ、俺んち半分、明人んち半分で」
「「そうしましょ!」」
結局こうなったか。仕方ない。
このまま平穏に過ごせると覆っていた矢先。
一学期末テストも目の前の放課後の図書室で男の生徒が本を返しに来た。今日の担当は綾乃だ。
「これ返却です」
「はい」
図書委員が座る机の前にあるカウンタに本を置いたその子は綾乃がその本を取ろうとした時、いきなり綾乃の手を掴んだ。
「高橋さん、好きです。付き合って下さい」
「…………」
綾乃の手を握り締めている。
「おい止めろ。何しているんだ」
俺がそいつの手を綾乃から離そうとすると
「お前は誰だよ」
「綾乃の彼氏だ」
「何だと。高橋さん本当ですか?」
「はい、明人は私の彼です。お付き合いしているのであなたにの期待には添えません」
まだ手を掴んでいる。
「いい加減に離せよ」
綾乃を掴んでいる手を思い切り切り返した。
「いてえな。何するんだ」
「お前が綾乃の手をいつまでも掴んでいるからだよ」
「ふざけるな。てめえみたいな野郎が高橋さんと付き合っているなんて認めねえぞ」
なんと殴りかかって来た。身長の差で顔を殴られるのは避けられたが思い切り体をぶつけられた。
「痛っ」
仕方なくそいつの腕を掴んだところで
「何やっているんだ。お前達」
「先生」
誰かが呼んだらしい。
図書室管理担当の先生が来た。結局俺とそいつだけ職員室に連れて行かれ、事情を聴かれた。
俺は有った事をそのまま話したが、そいつは綾乃と話していた所を俺がいきなり殴りかかって来たと言っているそうだ。そんな嘘直ぐにばれるのに。
結局図書室は、早めに閉室になり、綾乃も事情を聴かれ、簡単にそいつが嘘をついているという事で俺は先生から釈放された。
「明人ごめんなさい。私がもっと注意していれば」
「あれは仕方ないよ。それより綾乃があんな事になってしまってごめん」
「ううん、いいよ。触られた手は思い切り洗っておいたから」
「そうか」
「今日も家まで送って」
「もちろん」
綾乃を家まで送った後、家に帰り姉ちゃんに相談した。
「はーっ、困ったはねえ。確かに綾乃ちゃんは随分綺麗になったからね。でもそんな事が起こる事を生徒会としては見逃すわけにはいかないわ。明日会長と相談してみる。ちょっと待ってて。あんた綾乃ちゃん守るのよ」
「分かっているよ」
結局俺を殴ったのは、同じ一年生のCクラスの奴だったらしい。俺に暴力をふるった事と綾乃の手を強引に掴んだことで警察に被害届を出すか先生から聞かれたが、面倒なので良いと言ったけど、学校として許せないという事で一週間の停学になった。
でも今回の事で俺と綾乃の事が学内に広まったらしい。何も起こらないと良いんだけど。
姉ちゃんは生徒会として今回の件を見逃さず対応策を取ると約束してくれたけど何をしてくれるんだろう?
―――――
明人と綾乃ちゃんちょっとトラブルでしたね。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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