落ち葉踏みしめ、恋々と。

@Liku_kotogiri

呉服みつる

 遅めの時間に帰宅すると、郵便受けに広告やダイレクトメール以外の封筒が混じっているのが目に留まった。


 学校を卒業してからというもの、文明の利器に頼りっぱなしで、滅多なことでは私的な紙の便りなどなくなってしまった。元から筆不精ではあったが…。

さて置き、宛名と差出人を確認する。

宛名は『呉服くれはみつる』、私の名前だ。

差出人は『杉田理子』とある。覚えのない名前だ。しかし、併記されてるいる住所と名字には心当たりがある。

今でも時折やり取りのある、学生時代の同級生だ。


住所と名字から推測するに、その同級生の家族の誰かからのものだろう。

差出人が同級生本人でないことに、いささかの訝しさそ覚えたものの、手にしたそれの封を開けた。


封筒の中には、面白味のない白い紙にこう記されていた。



--------------------

 夫 みつる 儀 去る10月30日 登山中の滑落により急逝いたしました。

 葬儀は、すでに近親者のみで執り行いました。

 生前の親交に感謝いたしますとともに、謹んでお知らせ申し上げます。

 

 20**年11月10日

 喪主 杉田理子

--------------------



「は?」

間の抜けた声が出た。

 お前いつの間に結婚したんだよ!?

とか、

 昔、山登り誘った時は色々理由つけて断ってたくせに『登山中の滑落』って何!?

とか、

 『今度、案内するよ!』って言ってた観光は!?

とか、言いたいことがいくつも浮かんでは、消えてゆく。


最後に残ったのは、

 そっか、一人で逝ってしまったんだ…。


という言葉だけだった。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

落ち葉踏みしめ、恋々と。 @Liku_kotogiri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る