第六話 災厄のエンカウント

『ここで働かねぇか!? 金はいくらでも……っておい、待てよ! 話は最後まで――』


 と、そんな鍛冶屋のおっさんを振り切って数分後。

 現在、アッシュは冒険者ギルドへとやってきていた。


「えーっと、やってきたのはいいけど、どうやって登録するんだ?」


 以前も言った通り、あのゲームにおいて冒険者になるために、登録が必要と言った事はなかった。

 故にどうしていいかわからず、とりあえず周囲の確認をすると。


「お、あそこにあるのはクエストボードか。で、あっちは酒場」


 懐かしき……という程時間は立っていないが、見ていると色々こみ上げてくるゲームで見慣れた風景。

 しかし。


「ん、あれはなんだ?」


 アッシュの視線の先にあるのは、カウンターである――奥には受付のお姉さんみたいな人が二人立っている。


「…………」


 アッシュの記憶が間違ってない限り、あのカウンターはゲームの冒険者ギルドにはなかった。

 要するに、この世界故に追加された要素に違いない。


 冒険者ギルドに登録が必要という事。

 冒険者ギルドにある謎のカウンター。


 これら二つがこの世界において追加された要素だ。


「関係ないわけないよな」


 アッシュはそんな確信をもって、カウンターの方へ歩いていく。そして、受付のお姉さんへと話しかける。


「あの、冒険者になりたいんですけど。登録はここであってますか?」


「はい! 冒険者の登録ですね、こちらであってますよ!」


 と、笑顔で手続き用紙を渡して来てくれるお姉さん。

 彼女はさらに続けて言ってくる。


「その用紙を書き終えたら、実技試験があるので頑張ってください! 実技試験に合格すれば、無事に冒険者になれますよ!」


「え、試験とかあるの?」


「はい! 上級冒険者と戦って、能力を試させてもらいます! 試験といっても、だいたい受かるから大丈夫です! それにあなたは運がいいですよ!」


 と、ニコニコ顔のお姉さんは更に続けてくる。


「本来試験は上級冒険者を呼ばないとなので、当日にすぐ……っていう訳にはいかないんですけど、今日はすぐにでも受けられます!」


「つまり、今日はその上級冒険者とやらが居て、すぐにでも試験を始められるってことであってる?」


「はい! とっても強い冒険者さんなんですよ! ……少しあれですけど」


「え?」


「いや、何でもないですよ! 書き終わりましたね? じゃあ、そちらの扉から中庭に行ってください! 少し待っていれば、試験相手の冒険者さんがいらっしゃるので!」


「あ、はい」


 最後の方、お姉さんの態度が露骨にあやしかった。

 アッシュはとても不安になったが、とりあえず頷き指示に従うのだった。


      ●●●


 所変わって場所は指示された中庭。


「来ない……」


 アッシュがこの中庭に来てから、体感すでに三十分以上が経っていた。

 お姉さんにとっての『少し』がどれくらいなのかは知らないが、これはもうおかしいと考えていいに違いない。


「まさか忘れられてる? いや、それだけならいいけど……あのお姉さん、呼びにいってる途中で倒れたりしてないよな?」


 いずれにしろ、様子を見にもう一度冒険者ギルドの中へ入った方がいい。

 アッシュがそう考え、歩を進めようとしたその時。


「嫌なのじゃぁあああああああああああっ! 我はこれからご飯の時間なのじゃ! 試験なんかやりたくないのじゃぁあああああああああああああああああああああああっ!」


「ほら、そんな事言わないで! シャロンちゃんの後輩になるかもしれないんだから!」


 そんな二つの声が聞こえて来たのだった。

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