第六話 災厄のエンカウント②

 シャロンちゃん。

 現在、アッシュはそう呼ばれて引きずられてきた少女と、冒険者の中庭で向かい合っていた。


 アッシュがシャロンと向かい合っている理由は当然、冒険者になるための実技試験を受けるため――要するに、この彼女が試験官だからなのだが。


「ぶっすぅ~~~~っ!」


 と、腕を組み、視線をアッシュへ一度も向けて来ないシャロン。

 彼女は受付のお姉さんに無理矢理連れて来られたせいで、露骨にご機嫌斜めだ。


 さっさと帰りたい。 

 そんな気持ちが透けて見えてくる。


(にしても、ぶーたれてるけど、すごい綺麗な女の子だな)


 真っ先に目に着くのはモフモフとした狐耳、そしてもきゅぽんと柔らか丸みを帯びた狐尻尾。


おまけに、流れるように美しい金髪に碧眼と来ている――胸はやや控えめだが、美乳と言っていい領域に違いない。


 極め付け日本で言うところの着物だ。

 黒ベースのそれをやや着崩した風にしているシャロン。そんな彼女はその低めの身長とあいまって、お人形じみた可愛らしさを演出している。


 と、アッシュが気まずさから逃避するように、シャロンの分析をしていたその時。


「何をボケっとしているのじゃ! 早くかかってくるのじゃ!」


 と、シャロンはアッシュへと言ってくる。


「我は忙しいのじゃ! その辺の雑魚冒険者見習いに構っている暇はないのじゃ! それをこうして、わざわざ付き合ってあげてるのじゃぞ? せめて我のためにさっさと散るのじゃ!」


「……忙しいって、飯食いたいだけだろ。さっき聞こえて来たし」


「なっ!? この無礼者め! 我に口答えするどころか、我とあの娘の会話を盗み聞きするとは――許せないのじゃ!」


 言って、刀を抜いて来るシャロン。

 やたらと沸点低い上に、好戦的である。


(もしくは、本当にさっさと終わらせたいから、わざとこういうノリを作って、自分から刀を抜いたかだけど――)


「勝負なのじゃ! 我がおぬしを滅殺してやるのじゃ!」


「シャロンちゃん! 殺しちゃだめよ! これは試験だから、その冒険者さんの実力を判断するの!」


 と、聞こえてくるシャロンと受付のお姉さんの会話。

 それを聞いてアッシュは確信する。


(うん……失礼だけど、シャロンはそんな難しいこと考えてる性格じゃないな。どっちかっていうとアホの子の気配がする)


 いずれにしろ、シャロンが言う通り彼女と勝負することには異論はない。

 なんせ、そうして認められなければ冒険者にはなれないのだから。


 けれど、アッシュとしても序盤あれだけ雑魚扱いされれば、少しはむっとする。

 故に。


(圧勝しちゃうと目を付けられそうだから、それは控えるとして。シャロンの力を上回るくらいのステータスで立ち回って驚かせた後、最終的に負けてみるか……よし!)


 方針が決まったとなれば、まずは下準備。

 

アッシュは未だわーわー騒いでいるシャロンを無視し、メニューウィンドウ操作。それで彼女のステータスを見て――。


「っ!?」


 結論からいうと、シャロンのステータスはアッシュの予想を超え凄まじいものだった。

 彼はなるべく動揺を顔に出さないよう、ステータスを見ていく。


 シャロンのレベルは100。

 それはいい。


 並んでいるステータスはどれも最強クラス。

 それもいい。


 保有スキルは膨大。

 これも許せる。


 ジョブは――魔王。


 これはあり得ない。

 これだけはあり得ない。


 あのゲームに魔王というジョブは存在していなかった……少なくともプレイヤー側には。

 そう、魔王のジョブを有しているのは、設定上語られていたゲームのボス――正真正銘『魔王』だけなのだ。


 この世界とあのゲームの差異により、魔王というジョブの特殊性がずれている可能性は充分ある。

 しかし、もしもそのジョブの意味するところ、両者とも差異がなかったのならば。


 目の前の少女。

 狐娘シャロンは――。


「本物……なのか?」

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