第五話 鍛治師になってみる②

「それで依頼の内容は?」


「いや、依頼の内容はって言われてもよ……」


 と、鍛冶屋のおっさんはアッシュへと言ってくる。


「さっきも言った通り、依頼はかなり高度な物なんだ。だから、仮にあんたが協力してくれて二人でやったとしても――」


「いや、依頼は俺一人でやります」


「一人でって……」


「どっちにしろこのままじゃ依頼失敗なんですよね? だったら、可能性に賭けてみませんか? もしも剣をダメにしちゃったら、ちゃんと弁償しますから」


 アッシュがそう言うと、鍛冶屋のおっさんは半信半疑の少し困った様子で、ようやく依頼内容を教えてくれる。

 その内容はこうである。


 剣に攻撃魔法のエンチャントを施す。


 別に魔法の指定や威力の指定もない。

 ただそれだけだ。


(条件は緩いとはいえ、鍛冶屋メインでステ振りしてる人にはキツイかな。エンチャントは一応魔法使いの知識が必要だし――っと、この世界ではステ振りとか言わないのか)


 さて、なにはともあれやる事は決まっている。

 まずはスキル《変換》を使い、アッシュのステータスをエンチャント特化ステータスに変更する。


 続いていよいよ本番。

 剣へのエンチャントだが――。


(条件からすると、どんな低級魔法でもいいからエンチャントしてくれ……みたいな内容だけど)


 アッシュはそこでちらりと鍛冶屋のおっさんの方を見る。

 鍛冶屋のおっさんの見た目はザ・鍛冶屋。すなわち、職人気質が人間の形を取ったかのような見た目をしている。


 要するに仕事をキッチリ満足いくまでこなすタイプに違いない。


(だとしたら、依頼の最低限――クソ魔法一つエンチャントでは、おっさんが満足してくれない可能性があるよな)


 ならば、少し難易度は上がるが魔法三種混合エンチャントをしよう。

 あのゲームなら三種混合エンチャントと言えば、どんなプレイヤーも満足してくれるレベルだ。


 無論、その分難易度はあがってしまうが、ステータスを自由に弄れるアッシュにとっては楽勝である。


「よし……」


 アッシュは深呼吸した後、エンチャントするため剣へと触れ。


「できた」


 触れた直後、すでにエンチャントを終えていた。

 念のため言っておくが、別にアッシュのエンチャント速度は格段優れているわけではない――あのゲームにおいて普通の速度である。


 と、そんな事をアッシュが考えていると。


「え、できたって……エンチャントが?」


 鍛冶屋のおっさんが、おかしなものでも見るような表情で、そう問いかけてくる。

 そのためアッシュは頷いた後、彼へと言う。


「雷と炎、あとその二つをブーストするエンチャントをしておきました。これなら問題ないですよね?」


「三種……混合?」


「え、そうですけど」


 嫌な予感がする。

 鍛冶屋のおっさんの表情は、みるみる青ざめたものになっている。

 となると、考えられる理由は一つ。


(まさか三種じゃダメだったのか? クソ魔法一つ以外はやっちゃいけなかったのか?)


 もしそうなら、アッシュのやったことは完全なる蛇足である。

 あれだけ自信満々に言って失敗は、すさまじく恥ずかしい。


「ほ、本当に三種混合が出来て……やがる」


 と、聞こえて来たのは、いつの間にやら剣の確認をしているおっさん。

 彼はアッシュへ振り返ると、キラキラとした目で言ってくるのだった。


「二種混合ですら伝説と言われるのに、三種混合なんて神器のレベルだ。いったいあんたは何者なんだ?」


「…………」


 アッシュはこの時思ったのだった。

 どうやら依頼は無事達成できたに違いない。

 そして。


(あ、危なかった……五種混合とかやらなくてよかった)

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