第五話 鍛冶師になってみる

 時はあれから数十分後。

 場所は街の大通り。


 現在、アッシュはティオ達の家を出て冒険者ギルドへと向かっていた。

 どうして彼がそんな行動に出ているかは、実に簡単である。


『アッシュさん……あんなに強いんですから、冒険者になったらどうですか? 田舎から出て来たという事は、登録はまだですよね?』


 と、ティオにそんな事を進められたからである。

 この世界の冒険者ギルドが、あのゲームの冒険者ギルドとどう違うかは正直わからない。


(でも、ゲームの時は登録とかはいらなかったよな。普通に建物の中に入って、クエストボードにあるクエスト受けて~みたない感じだったし)


 やはりこの世界は細部がゲームと違う。

 実に楽しみである。


「まぁそれはいいとして、早く宿とか見つけないとな」


 ティオからは『食事も宿も、うちでいいじゃないですか……遠慮なさらずに』などと言われているが、さすがに申し訳ない。


 などと、アッシュがそんな事を考えながら歩いていたその時。


「だぁあああああああああっ! もうダメだこれ、間に合わねぇ!」


 どこからかそんなおっさんボイスが聞こえてくる。

 アッシュが声の聞こえて来た方――看板も何かもザ・鍛冶屋といった店の方を見てみると。


「くそっ! あいつら一気に体調崩しやがって! だから、夜遊びは大概にしろって言ったんだ! 今日はただでさえ大事な日なのによ!」


 おっさんが額をトントン叩きながら、剣とにらめっこしていた。


(見た感じあの剣に何かを施して、それを納期までに~みたいななので焦ってるっぽいけど……まぁご愁傷さまだな。剣については詳しくないし、俺に出来ることはない)


 納期納期。

 嫌な言葉である。

 なにはともあれ、今は冒険者――。


「待てよ」


 アッシュはとある事を思いつき、足を止める。そして、これまでとは全くの別方向――鍛冶屋のおっさんの方へと歩き出し。


「何かお困りごとですか?」


 と、アッシュはおっさんへと続けて話しかける。


「もし俺に出来る事があったら、手伝いますよ」


「誰だ兄ちゃん? ……あぁ、さっきのが聞こえてたか。すまねぇな、手伝ってもらえることはねぇよ。その気持ちだけうけとっておく、ありがとよ」


「見たところ、その剣にエンチャントするところですよね?」


「ほぉ、よくわかるな」


「剣が使われた様子がないですからね。だったら、しようとしていることは、なんとなくわかる。となると、困ってるのは――」


「あぁ、そうだ」


 と、鍛冶屋のおっさんは頬をポリポリ困って様子で言ってくる。


「実はうちの鍛冶屋は俺の他に、あと三人鍛冶師が居てな。まぁそいつらは俺の弟子なんだが」


 などなど。

 鍛冶屋のおっさんの話を簡潔にまとめるとこうなる。


 今日の夕方までにこの剣にエンチャントを施し、届け先に届けなければならない。

 けれど、そのエンチャントは非常に高度なものであり、四人がかりでなければできない。


 つまり、鍛冶屋のおっさんが今抱えている問題。

 それすなわち。


「人手が足りないと?」


「その通りだ……しかもエンチャントできる人手なんて、そう都合よくあつまらねぇ」


 などと、がっくしうなだれる鍛冶屋のおっさん。


 その様子から見るに、さぞ大切な依頼だったに違いない。

 故に。


「その依頼、俺が達成してみせますよ」


 アッシュはおっさんへ、そんな事を言うのであった。

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