第四話 色々と実験してみる③
ティオの魔法の威力が変わった理由はただ一つ。
それすなわち、スキル『変換』の使用だ。
やっている事自体は、自らのステータスを弄り攻撃力を上げたりするのと何一つ変わらない。
この場合では、アッシュはメニューウィンドウからティオのステータを開き、それにスキル『変換』を使用したに過ぎない。
とだけなると、何が実験だったのか……という事になってしまいかねないので、もう少し丁寧に説明するとこうなる。
前提としてスキル『変換』がアッシュ――自らのステータスを変更できる事は、盗賊との戦いによりすでに確認していた。
故に今回アッシュが試したかったのは、アッシュ以外のステータスを変更できるのかと言う点である。
以前説明した通り、メニューウィンドウを使えば他者のステータスを見る事は容易に出来る。
であるならば、そのステータスにスキル『変更』使えば、アッシュの時の様にステータスを変更できるかを試したかったのだ。
より簡潔に言うならばこうなる。
スキル『変換』を自らのステータスに使用する際と、他者のステータスに使用する際。その両者間で違いがあるのかどうか。
(結論としては確認できる差異はない。ティオの魔法攻撃力を上げたら、魔法の威力が上がったところを見るに、スキル『変換』は他者のステータスでも問題なく作用する)
であるならば、スキル『変換』の使用の幅がさらに広がったというものだ。
唯一のネックはスキル『変換』の適応時間が短い事だ。
と、アッシュが一通りの考えをまとめ終え、ティオの方を見ると。
「やはり……何回やっても魔法の威力が普通に戻っていますね。さっきの威力はいったい……」
などと小首をかしげて考え込んでしまっている。
しかし、ティオは自分で考えても答えが出ないと結論付けたに違いない。
彼女はアッシュの方へ振り向くと、言ってくる。
「アッシュさん……さっき非常に興味深い事を言っていましたね。私の魔法の威力が上がったのは、アッシュさんのせいとか……どういうことですか?」
「え、そんなこと言った――」
「言いました……言いましたよ、さっき。確実に……なんなら何分前に言ったかも覚えていますよ」
「…………」
うっかり余計な事を言ってしまった。
(スキル『変換』については、あんまり明かしたくないんだよな。この世界がどんな世界か完璧に把握していないし。というか、スキルどころかメニューウィンドウについてもあまり言いたくない……良くて狂人扱い、最悪モルモットにされそうだし)
決してティオを信頼していないわけではない。
けれど、ここでティオに言って彼女を巻き込むリスクと、万が一話が拡散してしまうリスクを考えるならば。
「実は俺、特殊な魔法を使えるんだよ。対象のステ――能力を底上げできる的な」
「対象を強化する魔法……」
と、怪訝な様子のティオ。
彼女は相変わらずのジトっとした目つきで言ってくる。
「つまり、先ほどアッシュさんは私に魔法を使っていたと?」
「そうなるな。魔法の威力を上げさせてもらった」
「まったく魔力の気配がないどころか……私ですら気が付かないように、そんな特殊な魔法を使用したと?」
「そ、そうなるな」
「…………」
「…………」
明らかに苦しい。
しかし、言い訳として先ほど以上のものがないのも事実だ。
あとはティオが見逃してくれるかどうかなのだが。
と、アッシュが内心ドキドキとそんな事を考えていると。
「まぁいいですよ。アッシュさんは恩人ですからね、信じますよ」
と、ティオはため息交じりに続けてくる。
「盗賊に襲われてるとき、私と目が合っているにもかかわらず……私が眼で助けを訴えているにもかかわらず、隠れていたチキンですけど……アッシュさんは命の恩人だから信じますよ」
「うぐっ……やっぱりあれ、気が付いてた?」
「気が付いていますよ……アッシュさんがチキンな事くらい。あんなに強いのに、怖がる必要性を感じませんが。まぁ……それでも、最終的に助けてくれた事は感謝しています」
と、再度の感謝と共に苦しい言い訳を見逃してくれるティオ。
やはりティオは優しい子である。
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