第四話 色々と実験してみる②
ティオは地面へと杖を向け、瞳を閉じ何かを呟きだす。
すると、周囲の空気が変わった。
ティオを――正確にはその杖を中心に、真冬よりもなお寒い空気が流れ出しているのだ。
真上には太陽が輝いているにも関わらず、問答無用で周囲の気温を奪っていく異常現象。
(雰囲気から察するにティオが使おうとしているのは氷系の魔法。だとするとティオは今、氷をもっともイメージしやすいオリジナルの呪文を唱えているはずだ……あのゲームの設定と同じならだけど)
であるならば、その詠唱が終わったその時。
ティオが口を閉じ、瞳を開いた今この時。
「凍てつけ」
ティオのそんな言葉と共に、本物の魔法が放たれた。
彼女が放った魔法の効果は実にシンプル。
「すごいな。一瞬にして、こんな大きな氷の塊を作るなんて」
「言ったじゃないですか……私は優秀ですからね。というか、アッシュさん……私が詠唱している段階から驚いている気配がしましたけど」
と、ティオはジトっとした目つきで続けてくる。
「ひょっとして、魔法を見るのは初めてですか? いくら田舎でも魔法使いくらい、いると思うのですが」
「えっと、うん……ほら! うちの田舎は特殊なんだよ」
「特殊……そうですか。詮索されたくなさそうな気配がするので、そういう事にしておきます。私は姉さんと違って、いい女なので」
ティオの話を聞く限り、彼女の姉が厄介そうでならない。
しかし、今は不確定な未来の事より大切なことがある。
アッシュの目的は、生まれて初めての本物の魔法を見る事ではないのだから。
(とりあえず、ティオの魔法の威力はだいたい把握した)
ティオが出した氷の塊の大きさは、およそ2~3メートル。人間ならば一瞬にして氷漬けに出来るサイズだ。
「…………」
そこで、アッシュはステータスウィンドウを開き、実験の下準備としてとある操作を施す。
もしも彼の考えが正しいのならばこれで……。
「ティオ。申し訳ないんだけど、もう一回同じくらいの魔力を注ぎ込んで、同じ魔法を使って欲しんだけど」
「?……なんだかわかりませんけど、別に構いませんよ」
と、ティオはすぐに了承し再び杖を向けてくれる。
だが、アッシュはとある事が気になり、念のため彼女へと言う。
「あぁっと、一応もう少し下がっておいてくれないかな」
「先ほどと同じ魔法ですし、この距離なら安全だと思いますが……何か考えあっての事なんですよね?」
「まぁ、そうなる」
アッシュが言うと、ティオは「仕方ないですね」などと気だるげに呟き、従ってくえる――態度とは裏腹に、なんだかんだ従ってくれる素直な子である。
アッシュはそんな事を考えている間にも、ティオはせっせと先ほどと同じ工程を繰り返す。そして、こちらも先ほど同様周囲の空気が変わり始め。
「凍てつけ」
再び放たれるティオの言葉と、それに呼応するように放たれる氷魔法。
ここまでは全く同じ流れ。
しかし。
その効果――魔法がもたらした効力は、先ほどとは大きく異なっていた。
「なっ!?」
と、思わずと言った様子で後ずさるティオ。
自分が撃った魔法で驚く。一見すると、そんな間抜けな光景に違いない。
けれど、それは仕方のない事である。
なぜならば。
ティオが放った氷魔法は、6メートルを優に超える氷塊を作り出していたのだから。
「な、なんですかこれ!? 私はさっきと同じ魔力で魔法を使ったのに……いや、というよりむしろ……今の私ではこんな威力の魔法は……」
ティオは「暴走? いやまさか……でも」などと、明らかに軽いパニックを起こしてしまっている。
さすがにこの状況を放置しておくのは可哀想だ。
アッシュはそう判断し、ティオに話しかける。
「あ~っと、とりあえず落ち着いて話を聞いて欲しんだけど」
「お、落ち着いていられませんよ! この私が……天才である私が魔力のコントロールを誤るなんて……こんな、こんなのあり得ない事です」
「え~と」
普段は無口だが、喋るときは喋るのだな。
と、アッシュはティオのイメージを修正しつつ言うのだった。
「二回目の魔法の威力が上がったのさ、実はあれ俺のせいなんだ」
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