第二話 世界最強になってみる②

「な、なんだてめぇ! なんなんだぁあああああああああああああっ!」


「もっとだ、もっと斬り込め!」



 と、最初の男に加え、その場に居た盗賊みたいな男達は全員錯乱でもしたのか、ひたすらにアッシュへ斬撃を繰り返してくる。

 だが、アッシュからすればそれは好都合である。


(どうすれば俺にダメージ入れられるのか。それを考る事を放棄したなら、もう俺の負けはなくなった)


 あとは、試せばいいだけである。

 アッシュが考える最強の矛は、本当に最強の矛成り得るのかを。


「…………」


 アッシュは降り注ぐ無数の斬撃の中、回避行動や防御行動をとらず、直立したまま最強の矛の作成を続ける。


 まずはメニューウィンドウを開く。

 次にすることはステータス画面を開くことだ。


(スキル『変換』は質量のないものなら、ノーコストで使用ができた。そして、その効力はメニューウィンドウ内の記述を書き換える事も可能)


 ならば。


 名前:アッシュ 職業:剣聖 レベル:100

  体力:9999 魔力:1 物攻:1 物防:999 魔攻:1 魔防:999

  素早さ:1 運:1

  保有スキル:変換(一時的に物体を好きなものに変更することが出来る。このスキルを使用する場合、その物の質量によって消費魔力と必要魔法攻撃力が代わる)


 このステータスを『変換』で書き換えればいい。

魔力を物攻を……あらゆる最底辺ステータスを、最高クラスにしてやればいい。必要なスキルを追加しまくればいい。

 そうすれば。


 ここに最強の矛は顕現する。


 あとは成功するかどうかだが。

 これに関しては愚問だ。


(ゲーマーの勘が告げている……これは絶対だ。今までの検証結果から見るに、失敗する方がありえない)


 故にアッシュはステータス画面に触れ、先ほど考えた最強のステータスを意識したまま。


「スキル『変換』!」


 直後、アッシュの身に起きた変化は絶大だった。

 素早さを上げたせいで体は軽い。運を上げたせいで何をやってもうまく行く確信がある。

 そして。


(物攻999! さらにあらゆる攻撃力アップ系スキルを追加しまくった一撃!)


 アッシュは体を捻り、腕を弓の様に引き絞り力が乗り切る瞬間をただ待ち続け。

 その時は来た。


アッシュは拳を空に向けて解き放つ。


ただそれだけだ。

 けれどただそれだけで、巻き起こった猛烈な暴風により、盗賊達はどこかへと飛んでいったのであった。


 …………。

 ………………。

 ……………………。


 と、それから十数秒。

 アッシュがそのままのポーズで異世界転移後――というより、人生初のリアル戦闘勝利の余韻に浸っていると。


「あ、えと……」


 と、聞こえてくるやや強気そうな少女の声。

 アッシュはそこで『いつまでもポーズ決めてる場合ではない』と、内心呟いてからその声の方へと振り返る。


(今は初勝利の余韻に浸るより、二人の安否を確かめる方が大切だよな)


 アッシュが見ていた限り、二人は腕を掴まれる以外特に何もされていない。そのため、無事には違いない。

けれどもし何か怪我でもしていて、それが原因で万が一……とでもなったら事である。


「二人とも大丈……っ」


 とその時、アッシュの体に異常が襲いかかった。


「なん……こ、れ?」


 うまく言葉を発することが出来ない。

 世界がクルクルと回り出す。

 体中の力が抜けていく。

 終いには、視界に入る全てが明滅を始めてしまう。


(まさか、スキル『変換』を使った反動?)


 いや、違う。

 今現在、アッシュの体を襲っているこの感じはそういった類のものではない。

 これはただ単純に。


 ぐぎゅるるるるるるるるるるるる。


 凄まじい音を立てるアッシュの腹。

 凄まじい渇きを訴えるアッシュの喉。


(あ、そっか……結局俺、何も食べてないし……飲んでな――)


 そこでアッシュの意識は闇の中に沈んでいくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る