第一話 色々と試してみる④
「ステーキの完成っと」
アッシュがしたことは簡単だ。
最初、アッシュは『変換』をそのまま小石に使用した――これが失敗したのは、アッシュのステータスでは小石の質量的に『変換』の対象に出来なかったである。
であるならばと、アッシュが次にしたのが成功例。
アッシュは小石をメニューウィンドウにぶち込み、メニューウィンドウ上で『変換』したのである。
わかりやすくいうならばこうだ。
メニューウィンドウに記載されている『小石』という文字を読んで『ステーキ』に変えた。
「メニューウィンドウはどうみても質量なんてなさそうだし、触れられるからもしかしたらと思ったけど」
結果は大成功。
しかし、喜ぶべきところはそこだけではない。
「もしかしてとは思ったけど、やっぱり魔力をまったく消費してないか」
アッシュの魔力は元からあるもないも関係ない値だ。
けれど。
「メニューウィンドウにつっこんでからスキル『変換』を使った際、魔力消費なしで使えるなら……俺は今後、どんなものでも無限に『変換』を使い続けることが出来る」
控えめに言って無敵では?
「せっかく異世界転移するなら、もっと物理的に無双できる能力がよかったけど。まぁ、生活面で無双できる能力もわるくないよな」
スキル『変換』とメニューウィンドウのコンボさえあれば、億万長者も夢ではない。
なんせ、小石を巨大な黄金にする事を、魔力消費なしに繰り返し続けられるのだ。
さらに、食料なども自分で作り出せるため、生活費などもほぼかからない。
「…………」
アッシュは現在、先ほどまでとはまるで逆の考えを抱いていた。
すなわち。
「これ、夢じゃないよな」
こんなにも楽出来る力を手に入れた今、日本への未練などない。
今こそが現実でなければ困るのだ。
「いや待て、こんな都合のいい世界どうせ夢に決まってるんだ。だったら、もう夢とか現実とかいったん忘れて、今はとりあえず今を楽しむべきだ」
そうしなければもったいない。
と、アッシュは心の中でうんうん頷き、スキル『変換』で作り出したステーキを口の中に――。
ガギッ。
嫌な音がした。
まるで絶対に口に含むべきではない硬さの何かを、口に入れて噛んでしまったかのような。
「~~~~っ!」
となれば心当たりは一つしかない。
アッシュが慌てて口の中のものを吐き出し、それを見てみると。
「え、なんで?」
そこには石があった。
そう、先ほどステーキに変えたはずの小石である。
「これつまり、ステーキが小石に戻ったってこと――っ!」
アッシュはここで自分のバカさ加減に気が付く。
飢えと渇きのせいで、やはり正常な判断能力を失っていたことを痛烈に自覚する。
「バカか俺は……何基本的な事を忘れているんだよ」
スキル『変換』の能力は――一時的に物体を好きなものに変更することが出来る。このスキルを使用する場合、その物の質量によって消費魔力と必要魔法攻撃力が代わる。
「…………」
アッシュは同時にとんでもない事に気が付く。
「これ、もしもステーキの時に食ってたらどうなってたんだ? スキル『変換』の効果が胃の中で解けたら」
よそう。
考えてはいけない部類の事だこれは。
とりあえず、今はそういう事態にならなかっただけましだ。
「とはいえ、これで全部振り出し……待てよ」
スキル『変換』はメニューウィンドウの記述を変えられる事が判明した。
そして、メニューウィンドウ上で変えたものは、一時的にだが実際に反映される。
「だったらステータスを書き換えれば――」
と、その時だった。
どこからか女性の悲鳴が聞こえてきたのは。
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