第一話 色々と試してみる③
「スキル『変換』。その能力は――」
一時的に物体を好きなものに変えることが出来る。このスキルを使用する場合、その物の質量によって消費魔力と必要魔法攻撃力が代わる。
「食べ物や水を得るには、もはや『変換』を使うしかない」
言って、アッシュは周囲に落ちている小石を掴み、目の位置まで持ってくる。
「例えば、『変換』を使ってこの石をステーキに変えられたら? 水やコーラに変えることが出来れば?」
先ほどまでアッシュを苦しめていた食料問題。それが一気に解決するのである。
いや、それだけではない。
もしも、スキル『変換』を使いそんな事が出来るのならば。石から様々な物を作り出し、売りさばくことで億万長者も夢ではない。
となれば。
「やってみるしかないよな。でも、スキルの発動はどうすれば……とりあえず念じてみるか」
アッシュは小石を軽く握りしめ、心の中で一言唱える。
スキル『変換』。
すると、手の中に眩い光が発生し、小石に集中していくのを感じられる。
と、その時。
「あ、あれ? なんだ? どうして急に光が収まっていくんだ?」
アッシュは念のため、手を開いて小石を確認してみるが何一つ変わった様子はない。
ステーキにもなっていなければ、水にもなっていない。
「っ……なんでだよ! どうして、明らかにうまく行きそうだったじゃ――」
アッシュはそこで二つの事に気が付いてしまう。
一つは自分の思考能力は、空腹のせいで著しく低下していた事に違いない事。
もう一つは。
「スキル『変換』は……対象の質量によって、必要魔力と必要魔法攻撃力が変わるんだ……つまり俺のクソステータスじゃ」
スキル『変換』は決して使うことが出来ない。
…………。
………………。
……………………。
「ふざけるな。ゲーマー舐めるなよ」
アッシュがこれくらいで諦めると思ったら、大きな間違いである。
「ここはゲームの世界じゃない、現実だ。であるなら、ゲームの世界で出来た事が出来なくなったり、ゲームの世界で出来なかった事が出来るようになったりしているはず」
実際、ゲームの時は疲れや空腹を感じなかった。
この世界は明確にゲームとは違うのだ。
つまり、この世界には新しい法則がある。
「考えろ、見落としがあるはずだ。さっきから俺は現実的な要素のみに目を向けていた……三次元的にばかり物を考えていた。もっとゲーム的に、現実じゃあり得ない事は――」
そこでアッシュは気がつく。
ゲームでも現実でも決して不可能な抜け道に。
だが、それをするにはまずメニューウィンドウの確認が必要不可欠である。
「この石……今どういう状態なんだ?」
アッシュがやっていたゲームだけでなく、殆ど全てのゲームにおいての話だが。メニューウィンドウには持ち物リスト的なものがある。
「この石は今、俺の持ち物リストに入っているのか?」
アッシュは試しにメニューウィンドウを操作し、持ち物リスト確認してみると。
すると、石がアッシュの持ち物になっていない事が確認できる。
「だったら……」
アッシュが心の中で小石を収納することをイメージすると。
なんと、小石が消えたのである――否。
「持ち物リストに小石が載った!」
これで最低条件はクリアしたと言える。
であるならば、残りは実践である。
「現実ではありえないメニューウィンドウの存在。そして、このメニューウィンドウもゲームとは違うところがある」
アッシュはメニューウィンドウに――明確に言うならば、持ち物リストの『小石』と記載があるところに指をあてる。
「そう、ゲームにおいてメニューウィンドウは触れる事が出来なかった。あくまでシステム的で、テレビ画面に映し出されるだけ。決して、プレイヤーキャラクターの手元になんか表示されなかった」
あえてゲーム的に言うならば、プレイヤー視点が三人称から一人称になった故の変更。
先に言った新しい法則を探すとするならば、この変更点以外にありえない。
「…………」
アッシュのゲーマーとしての直感が告げている。
今から行う事は絶対に成功すると。
「スキル『変換』!」
再び発生する光。
アッシュはそれが収まった後、メニューウィンドウから『小石』を取り出す。
だがしかし。
メニューウィンドウから取り出した『小石』はすでに小石でなくなっていた。
そこにあったのは。
「ステーキの完成っと」
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