第212話 陽菜・大河・優斗の希望
楽しそうに遊ぶ子ども達をユリアナさんに任せた後、私達は神様達に報告をしに教会へ来ていた。
教会の中に入り、以前にも増して清浄に感じる空気を肺一杯に吸い込み深呼吸していると、六神と創造神様ゼノス様が目の前に音もなく現れた。ゼノス様の姿は未だおじいちゃんのままだが、その顔はどこか晴れやかに見える。
「ゼノス様お待たせしてしまいましたが、勇者召喚の召喚陣と召喚魔法陣の書いてある書物の破壊、無事に終わりました。魔道王様のお力を借りれたおかげで出来たんですけどね。」
「全て見ておったよ。わしの愚かな行いの後始末をさせてしまって申し訳なかった。頼みを叶えてくれて、本当にありがとう。」
「桜様、陽菜様、大河様、優斗様、この度はご尽力頂きありがとうございました。」
「感謝する。」
ゼノス様に続き、ディーネとハレクトが私達の側に寄り、感謝を伝えてくれる。陽菜達は緊張からか言葉もなく、頻りと首を必死に振っている。
「ありがとな!まあ、扉の開閉に手間取ってた時は笑わせてもらったけどな。」
「桜ありがとう。笑ってたイシュトスがハレクトに黙らせられてた姿の方が笑えたけどね。」
「ティアニス!!!」
「あはははは。」
楽しそうに笑いながら逃げ回るティアニスを、鬼の形相で追いかけ回すイシュトス。相変わらず仲良しな二人にこっそり笑ってしまう。笑ったことがバレると、私がイシュトスに絡まれるから、決してバレてはいけない。
「私は~、久しぶりに~桜ちゃんのお歌が聴けて嬉しかった~。」
「それにあの踊りも、この世界では見たことのないもので面白かったよ。」
「ふふっ。二人に喜んで貰えて私も嬉しい。」
シューレ王国でも評判良かったし、新しい温泉街の娯楽として企画しても良いかも。有志を募ってみようかな。今度リアム君に相談してみようかな。
「今はまだ力が戻っていないが、あと三ヶ月もしたらまた力も戻るじゃろう。以前桜が、陽菜達を地球に帰したいと言っておったな。お主達も地球に帰りたいという思いはあるか?」
三人はゼノス様の問いに、驚き目を見開いている。あれ?三人に地球に帰れる方法があるって言ってなかったっけ?確かあの時は神様達に会って、私のステータスが出来て、言葉が分かるようになったことにテンションが上がってて・・・・・・言ってない・・・気がする。
「あの・・・説明忘れてたんだけどね。ゼノス様の力が回復したら、地球に送り返せるって聞いてたんだよね・・・かなり前に。」
「・・・だから桜はあんなにゼノス様への信仰にこだわってたんだな。」
「てっきりステータスを作ってもらった恩返しなのかと思ってたよ。」
あぁぁ、私のバカ。一番大切な事を伝え忘れてるなんて、うっかりどころの話じゃないよね。
「・・・・・・地球に帰れるの?」
「うん、三ヶ月後には帰れるんだよ。」
「またパパやママに会えるの?」
「うん、会えるよ。」
「本当に・・・?」
「うん、本当だよ。伝え忘れてて、本当にごめんなさい。」
「うぅぅぅぅ・・・嬉しいよぅ。」
陽菜の瞳から、涙が零れ出す。涙が止まらない陽菜の頭や肩を、大河と優斗が嬉しそうな笑顔でポンポンと優しく叩いている。
そんな微笑ましい光景を見ながら、陽菜達とは沢山話をしてきたのに、地球の話を全くしなかった事にふと思い至る。
思えば三人は一度も「帰りたい」と言ったことがない。もしかしたらもう帰れないと思って、迷惑をかけないように気持ちを抑えてきたのかもしれない。
まだ高校生の子供達の気持ちに寄り添えず、我慢をさせてきた事に、今になって気付くなんて・・・申し訳ない気持ちが一杯で、目から溢れ出しそうです。
「して、桜はどうする?」
「私はこのまま、大切な家族のコタロウとリュウがいるこちらの世界で暮らしていきたいです。成長を見守っていきたい子達もいますしね。」
「「「えっ!?」」」
「えっ?」
私の返答に、固まった表情で三人が私を見つめている。
あれ?何か変なこと言ったかな?・・・そうか、そうだうね。帰れることを話してないんだから、私が残ることも当然話してないよね。
「・・・桜は帰らないの?」
「う、うん。ごめんね。」
「そんなぁ・・・寂しい・・・うぅぅ・・・。」
「陽菜泣くな。桜の家族はこっちの世界にいるんだから仕方ないだろ?」
「分かってるよ・・・。でも地球でもまた会えると思ってたから・・・うあぁぁ・・・。」
帰ったら地球でも会えると思っててくれたんだ。そんな風に思ってくれてたことが、とっても嬉しい。一緒にこの世界に飛ばされたのがこの子達で、私は幸運だったな。
蹲って泣きじゃくる陽菜の背を、唯々撫でることしか出来ない。大河と優斗も、複雑な表情をしている。
「ねぇ、地球に帰る前に沢山思い出作らない?何かしたい事とか、行きたいところとかない?」
「僕はこの世界を色々見て回りたい。」
「良いね!行ったことないところに行ってみよう。」
「俺はカティアダンジョンを制覇したい!」
「うんうん、初制覇しちゃおう!」
「形が残る物を、桜と一緒に作りたい・・・。」
「それ楽しそう。丁度子ども達の遊具とか作りたかったから、一緒に案を出し合おうね!」
「うん!」
思い返すと陽菜達は、シューレ王国ではほとんど戦闘訓練をさせられていたし、それ以外は自由に外に出ることも出来ずにお城にいた。温泉街に来てからはカティアダンジョンに籠もってることが多かった。折角なら、もっと異世界を満喫したいよね。
最後に笑顔で別れられるように、沢山楽しい思い出を作っちゃおう!
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