第211話 帰還

「もう少し滞在されて行きませんか?せめてもう一泊でも・・・」

「折角ですが、温泉街を(フェデリコが)あまり長期間不在にするのもよくないですし、子ども達を早く安心出来る環境に連れて行ってあげたいので。」

「そうですか・・・残念です。」


 項垂れるオルランド王子の隣には、黒いオーラを漂わせているルリア王女とライオネル王も見送りに来てくれていた。

 私達が帰ったらすぐにでも再調きょ・・・しつつ、国を立て直すために働くことになるのだろう。

 余計なことを言って、私達を巻き込もうとしないで欲しい。


「桜様?先程の会話の空白がやけに気になるのですが?」

「ん?空白なんてあったかな?」

「はぁ・・・。帰っても仕事が山積みの予感しかしない・・・。」

「あはは。温泉もドリンクバーも解禁するから、よろしくね。」


 私の解禁宣言に、フェデリコの目が一瞬光ったのを見逃さなかった。たがが外れないようにだけは、カリオに注意しておこう。


「それじゃあ、みんな温泉街に帰るよ~!」

「「「「「 はーい 」」」」」


 全員の準備が整ったのを確認してから、オルランド王子達に挨拶してから温泉街の広場へと転移する。

 一瞬で懐かしい桜の香りに包まれた温泉街の広場へと到着した。この距離を瞬きの間に移動出来る転移魔法は、本当に便利だよね。


「桜様、お帰りなさいませ!」

「怪我もなく、ご無事で何よりです。」

「「「「「 おかえりなさ~い! 」」」」」

「ただいま!誰一人怪我することなく、無事に帰ってきたよ~。」


 広場には驚いたことに、温泉街に住む全住人が集まっていた。私達の姿を見て、誰もが安堵したり、嬉しそうにしている。こんなにも心配をかけてしまったことに申し訳なさを感じる。


「よし!今夜は宴会にしよう!」

「「「「「 やったぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」」」」」

「クレマン、疲れてるところ申し訳ないんだけど」

「すぐに準備に取りかかります。リリー、カイ。」

「「 はい!」」

「コタロウ様とリュウ様は、今夜の宴で必要な肉の確保を、お願いしても宜しいでしょうか?」

「「 桜(ちゃん)のためなら良いよ!」」

「もちろん桜様のために、よろしくお願い致します。」

「 任せろ!」「 任せて~!」


 クレマンは私が全てを言い終える前に、優雅にお辞儀をし、コタロウとリュウに肉確保の指示を出したかと思うと、リリーとカイを連れて颯爽と去って行った。うちの執事が優秀すぎる。有り難く準備は任せちゃおう。


「さあ、フェデリコ様。宴会までまだ時間がありますので、執務室に行きましょう。」

「えっ!?今シューレ王国から帰ってきたばかりなんだけど・・・。」

「お疲れとは思いますが、フェデリコ様にしか決済出来ない仕事が溜まっていますので、お願い致しますね。」

「あれ?決定なの?ちょっ・・・カリオ待って」

「待てません。」


 抵抗する間もなく困惑したままのフェデリコは、少しやつれたカリオに連れて行かれた。

 あのカリオがフェデリコを引き摺っている衝撃の光景に呆気に取られていると、爛々と目を輝かせた魔道王がそわそわとしながら辺りをしきりと見渡している姿が視界に入る。


「桜様!新しい魔道具はどこにありますか?見せて頂けるんですよね?」

「あ、はい。でも今日はお疲れでは」

「全くこれっぽっちも疲れていません!」

「・・・リアム君。」

「ははっ。分かったよ、任せて。」

「よろしくね。」


 今にも魔道具を探して走り出しそうな魔道王に苦笑しながら、リアム君は魔道王を連れてグレイソンの店へと向かっていった。

 明日に延長して暴走されるよりはましだと思ったんだろう。宴会までに果たして終わるのだろうか。終わらないだろうな。・・・グレイソン頑張れ。


 お出迎えに来てくれていたみんなも、それぞれ今夜の宴会準備にと動き出した。広場に残っているのは、私と固まったまま動かないユリアナさんと子ども達。それと子ども達と手を繋いでいた陽菜達だけだった。


「それじゃあ早速行きますか。」

「行くって何処へ・・・。」

「今日からユリアナさんと子ども達が住むお家だよ。あっ、忘れてた。」

「?」

「みんな、温泉街へようこそ!これからよろしくね!」

「はい。こちらこそよろしくお願い致します。」

「「「「「 よろしくお願いします!」」」」」


 大樹寮へ案内する途中、温泉街に興味津々の子ども達は、楽しそうにキョロキョロと周りを見ながら歩いていて何度も転びかけていた。そんな子ども達の様子にハラハラしながらも、シューレ王国にいた時のような怯えた様子がないことにホッとする。


 広場からほど近い教会の隣にある大樹寮へ入ると、ホールで子ども達がドルム達の力作の遊具で遊んでいた。

 やっぱりいつ見ても楽しそうだな。でも人数も増えたことだし、外で遊べる遊具も欲しいよね。今度ドルムとホルグに相談してみよう。


「何これ面白そう~。」

「とっても面白いんだよ。一緒に遊ぼうよ~。」

「うん!」


 私が少し考えに耽っている間に、気付くと子ども達の楽しそうな笑い声がホールに響いている。ユリアナさんと子ども達は、先住の子ども達と既に打ち解けて一緒に遊んでいた。そこに陽菜達も混じって、全力で遊んでいる。子ども達の体力は思ってる以上に無尽蔵だから、きっと今夜の温泉は陽菜達の体に染み渡ることだろう。

 それにしても子ども達の柔軟生は本当に凄い。これならすぐに温泉街に慣れてくれるかな。


「桜お姉さんも一緒に遊ぼうよ!」

「早く早くー!」

「今行くよ~。」


 うん。今夜の温泉は私にも染み渡るね。



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長らく更新をお休みして申し訳ありませんでした。

やっと私の中で納得のいく結末まで辿り着いたので、ゆっくりですが更新を再開したいと思います。

最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


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