第210話 魔道書
謁見の間に
私とクレマンとルークさんが説教を受けている間、魔道王はというとのんびり寛いでいたから憎らしい。魔法陣や研究塔を破壊してくれて感謝していた気持ちが霧散していきそうだ。
「あとは魔道書を見つけて処分すれば、二度と勇者召喚が行われることはないということですね?」
「そうなんですけど・・・あの粉々になった研究塔の中にあったとしたら、もう処分は完了したという事になるんですけど・・・探す前に跡形もなく研究塔を壊されまして・・・。」
「あぁ、それは・・・。」
オルランド王子と私は思わずジトッとした目線を魔道王に向ける。
もし魔道書が見付けられなかったら、研究塔と一緒に粉々になったと結論づけることになるんだろうけど、何だかそれではスッキリしない。
「研究塔には魔道書の気配はありませんでしたよ。」
「えっ!?気配!?」
「はい。魔道書のような魔法陣が記された書物からは、魔力の波動が微弱ながら出ているのですが、研究塔ではそのうような波動は感じられませんでした。」
魔道王は何でもないことのように重要な事実をサラッと口にする。しかしこと魔法に関しては、魔道王以上に詳しい人はいない。彼が無かったというのだから、研究塔には無かったのだろう。
「ちなみにこの城からは色んな魔力の波動を感じます。あちらの方角に纏めて数十冊。そしてこの部屋に一冊。」
「この謁見の間に魔道書があるの!?」
「はい。王が座る玉座から波動を感じますよ。破壊致しましょうか?」
「ま、待って!!!中身を確認するまでは手出し無用です!!!」
「畏まりました。処分する際は、私にお任せ下さい。その魔道書も中々力が強そうだ。」
そう言って玉座を見る魔道王の瞳は、魔法陣を壊した時と同じ・・・いやそれ以上のギラギラとした輝きを放っている。
魔道王の雰囲気から、きっとこの魔道書も処分するのが大変なことになりそうな気がする。処分する場所は、人に迷惑が掛からない場所にしよう。そうしよう。
バキバキッ
「ありましたよ!玉座の座面が隠し収納になってるとは考えましたね。」
私が魔道書の処分場所について少し考えてる間に、不吉な音が謁見の間に響く。そして若干弾んだ声の魔道王が、魔道書を抱えて私の元へと小走りで向かって来る。
恐る恐る玉座へ視線を向けると、見事に座面が椅子とさよならをしていた。
オルランド王子をチラリと見ると、呆気に取られた表情で玉座と魔道王を交互に見ている。
「えーっと・・・修理費は温泉街に請求して下さいね。」
「魔道都市エテルネではなく温泉街にですか?」
私の申し出が意外だったのか、オルランド王子だけではなくルークさんやフェデリコまでもが、驚いた顔で私を見ている。
「はい。やり方は多少強引ですが、私達だけでは魔法陣の破壊も、魔道書を見つけることも出来なかったかもしれないので。これでも一応魔道王様には感謝してるんです。・・・まぁ、もう少し穏便にして欲しかったですけどね!」
「ははっ。魔道王様はかなり豪快な方みたいですね。分かりました。では温泉街に請求させて頂きますね。本当なら修理費なんて不要!と言いたかったのですが・・・お恥ずかしい話、相当国庫が危ない状態でして・・・。申し訳ない。」
苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうに話すオルランド王子。
これから国を再建するには相当お金も掛かるだろうに、そのお金のほとんどが弟の豪遊のために使われてたんだから、そりゃ苦笑するしかないよね。
「桜様がお探しの魔道書はこちらでしょうか?」
オルランド王子と話していると、魔道書を抱えた魔道王がやって来た。
魔道書を受け取り表紙を見ると、『勇者召喚と召喚魔法陣について』と書いてある。
「何というか・・・そのままの表題ですね。」
「中身も見てみたのですが、先ほど破壊した魔法陣と同じ物が書かれていたので間違いないと思いますよ。」
私も中身を見てみるが、魔法陣の違いは全く分からなかった。だけど勇者召喚についてもあれこれ腹立つことが書かれているので、ゼノス様から処分の依頼を受けた魔道書はこれだろう。
「この魔道書で間違いなさそうです。オルランド王子、申し訳ないのですがこの魔道しょぉぉぉぉぉぉ!?」
シューレ王国所有の魔道書を処分する許可を、オルランド王子に貰おうとした矢先。
魔道王が私からヒョイッと魔道書を取ると、徐に部屋の中心へと放り投げ、魔法を放った。
魔法陣の時のように、バチバチと激しい静電気が謁見の間中に走る。
ギラついた瞳と笑みを浮かべる魔道王。
さっき見た光景かと錯覚するほど、同じ光景が私の前に広がっている。
違うのはここが謁見の間ということと、立会人が他にもいるということ。
「あははははははははははは。もう終わりですか?魔法陣より手応えが無いですねぇ!」
とても楽しそうに笑いながら、魔道王が魔道書を燃やしている。
その光景を指さしながら、オルランド王子やフェデリコに私は尋ねる。
「あれ、止められる?」
二人は静かに首を左右に振ると、引きつった笑みで私に謝罪した。
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