第208話 いよいよ

「それでは桜、近々ツヴェルク王国へ来るという約束忘れるでないぞ?必ずだからな?」


 ガンドール王は酒宴の時に出したお酒が大層お気に召したようで、個人的に購入したいと言っていた。個人購入ね・・・。お酒の匂いに敏感なドワーフ達が黙っているとはどうしても思えない。それなりの量を持って行った方が良いんだろうな。


「桜様、アマリア聖王国に来る話もお忘れなく。聖王様が楽しみにお待ちしておりますので。」

「イザヤさんも新しいレシピを楽しみにしてましたよ。」


 今では寂れてた事が嘘のように賑わっているアマリア聖王国。あれから独自の商品なども出来て、ますます活気が出ているらしい。

 今度行く時は陽菜達も連れて観光するのも良いかもしれないな。


「はい。必ず伺うとお約束します。」


 私の返事に満足そうに頷くと、ガンドール王とマイルズさんとカルロさんは沢山の護衛達と共にそれぞれの国へと帰路に着いた。

 マイルズさんとカルロさんの帰り道を護衛するらしいエマエル姉妹とも、ここでお別れだ。随分無理なお願いをしたにも関わらず、二つ返事で手を貸してくれた二人には本当に感謝しかない。


「お二人とも今回は力をお貸し下さり、本当にありがとうございました!」

「良いのよ~!と~っても楽しかった~!」

「それじゃあ桜ちゃん、また泊まりに来てね~!」

「はい!必ず!」


 皆に手を振りながら見送りつつチラリと隣に目を向けると、獣王国ベスティアのライオン王とルリア王女に挟まれながら、傷だらけのオルランド王子も粛々と見送っている。

 オルランド王子の怪我を流石に見てられず、見送り前に傷湯を渡そうとしたけど、笑顔のルリア王女に「折角なのですがこれも女避け・・・罰なので、お気持ちだけ頂きますわ。」とにっこりと笑顔で却下された。とっても可愛い笑顔のはずなのに、薄らと寒気を感じてしまったのは何故だろう。・・・・・深くは考えまい。


 ちなみにライオン王はオルランド王子の戴冠式が終わるまでは、もう暫くこの国に留まるようだ。オルランド王子を支えるためとは言っていたが、きっと身重のルリア王女の心労を少しでも減らす為だろう。これならオルランド王子も下手な事は出来ないね。・・・頑張れ。


「で?魔道王様はいつお帰りになるのですか?」

「私は桜様が帰られるまでお側におりますよ?」


 キョトンとした顔で首を傾けながら、さも当然かのように言う魔道王。そんなに国を空けていて良いのだろうか?仮にも魔道都市エテルネの王様なんだよね?

 助けを求めるように魔道王の後ろに控えている側近であろう魔道士に視線を向けると、にっこりと笑顔で頷かれた。え?誰も文句がないの?それで良いの?


「私はまだこの国で捜し物があるので、見つけるまでは帰れませんよ?」

「では私も一緒にお探ししましょう!」

「国をそんなに不在にして大丈夫なのですか?」

「はい!全く問題ありません!」

「・・・・・ではお言葉に甘えますね。」


 一切の躊躇もなく、笑顔で答える魔道王に何を言っても無駄だと悟った私は、そう答えるしかなかったのだった。






「またこの面倒な作りの塔に来る事になるとはね~。」

「でもあの時みたいに人が居ないから、ちょっと気が楽かも。」

「確かに、あの時は危機一髪だったもんね~。」


 見送りが終わったその足で、私達は下見の時に見つけていた召喚魔法陣のある研究塔の最上階へと、ルークさんに案内してもらっていた。

 私がこの国に今なお残っているのは、ゼノス様からの頼みを実行するため。そう召喚魔法陣の破壊と、召喚魔法陣について書かれた本の処分だ。


 陽菜達も来たがっていたけど、若い彼女らにあの嫌な出来事を思い出させたくはない。子ども達の傍に居て欲しいと頼み、コタロウとリュウと一緒に子ども達と遊んでもらっている。

 なので今この場に居るのは、案内役のルークさんと魔道王、それとどうしても付いて来ると言って引かなかったクレマンと私の4人。

 これが終わったらすぐ温泉街に帰るつもりなので、リリー達には帰り支度をしてもらっている。


 魔道王には最上階に向かう道すがら、これから魔法陣を壊して本を処分したいとサクッと簡単に説明した。異世界から来たと話すと、また質問攻めになりそうなのでそこは割愛。もう魔道具の話だけでお腹いっぱいです。


「さあ着いたよ~。」

「やっと着いたー。最上階までグルグル回りながら上るのは流石に少し疲れたよ。」

「桜様、お茶をどうぞ。」

「お茶!?あ、収納袋か。ありがとうクレマン。」


 クレマンが差し出してくれたのは、いつものティーカップではなく、立ったままでも飲みやすいようにマグカップに入れられた紅茶だった。しかも飲みやすい温度に調節までしてある。その収納袋の中には、どれほどのお茶やお菓子が入っているのだろう。一度見てみたいかも。


 紅茶を飲み干し、一息吐いてから改めて部屋の中を見回す。部屋の中央にあるのは、あの日無理矢理私達を攫ってきた召喚魔法陣。

 久しぶりの休日に大好きなケーキを食べようとウキウキしていたあの日、気が付いたら突然この部屋に居て、分からない言葉で怒鳴られ、睨まれ、槍を突きつけられた。あの時の記憶が、恐怖や悔しくて腹立たしい気持ちと共に蘇ってくる。やっぱりあまり気持ちの良い物では無いな。陽菜達を連れて来なくて正解だったね。


 さて、どう壊そうか。とりあえず手当たり次第試してみるしかないかな。火魔法は屋内じゃ危険だろうし、風か大地の魔法かな?ギムルさんが作ってくれた剣でも試してみようかな。





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