第207話 新たな家族
酒宴の翌朝、魔道王は予想通り二日酔いが酷いのか真っ青な顔で朝食会場に現れた。ちなみにガンドール王達はクレマンが上手に酒量制限をかけてくれたおかげで、誰1人二日酔いにはなっていなかった。流石の手腕に感謝しかないね。
「おはようございます魔道王様。昨日は大層お酒をお召し上がりになったようですね?」
「はい・・・普段は飲まないのですが、昨日飲んだ酒はあまりに美味しくてつい飲み過ぎてしまったようです・・・。」
飲み慣れてない人があれだけの量飲んだら、そりゃ潰れるのも納得だ。顔色が全く変わらなかったから、私も気づけなかったよ。
「それではこれをどうぞお飲み下さい。すぐに二日酔いも治りますので。昨夜の綺麗な魔法のお礼です。」
「・・・・・魔法?」
「はい。酒宴の終わりに、テラスから夜空に光で花やドラゴンなどを描いて下さったじゃないですか。とても綺麗でしたよ。」
「・・・・・?」
魔道王は私が渡した回湯を飲みながら、昨夜の記憶を思い出そうとしている。この様子だと全く覚えて無さそうだな。一体どこから酔っ払っていたんだろう。・・・攻撃魔法を放たなくて良かったよ。
一歩間違えてたらこの国が焦土と化していたのではと思うとゾッとする。今後魔道王にはお酒を飲ませないように気を付けようと、心に深く刻むのだった。
朝食後に開かれた会談には私は参加しなかった。私には分からない難しい話ばかりだろうし、餅は餅屋、フェデリコに任せるのが一番だ。
クレマンの部下達がシューレ王国を追放された有能な官僚達を探し出し保護していたので、きっと彼らに戻ってもらい手伝ってもらうのだろう。
甘い汁を啜っていた貴族達の反発は強いだろうけど、不正の証拠も完璧に揃えてある。これでやっとまともな国になりそうだね。
会談をフェデリコに丸投げした私はというと、コタロウとリュウ、陽菜達と一緒に、お城の庭園で孤児院の子ども達と遊んでいた。とても広い庭園に、色鮮やかな花々が咲き乱れている様子は中々に壮観だ。落ち着いたら温泉街にもこんな風に訪れる人の心を癒やしてくれる庭園を造っても良いかもしれない。
「ねえ陽菜お姉ちゃん。私達また孤児院に戻るのかな・・・?」
さっきまで楽しそうに庭園を走り回っていた子の内の1人が、いつの間にか陽菜の隣に来て、ギュッとスカートを握りしめながら不安そうな顔で陽菜を見上げている。
「そうだね・・・。もしかしてアンちゃんは孤児院に戻りたくない?」
「・・・・・・うん。怖いの。」
ポツリと心の中にあった不安を呟いた瞬間、ずっと堪えていた物が溢れてしまったんだろう。アンちゃんの瞳から大粒の涙が零れ出した。陽菜はアンちゃんをギューッと抱きしめながら、背中を優しく撫でている。
「・・・僕も孤児院に帰りたくない。」
「また怖い人が来たら嫌だよぅ・・・。」
アンちゃんの声が聞こえたのか、他の子ども達もみんな泣き出してしまった。今回の出来事は子ども達の心に消えない傷を作るには十分だっただろう。
一緒に遊んでいた大河や優斗が、慌てた様子で子ども達の頭や背中を撫でている。コタロウとリュウも心配そうに零れた涙を舐めていた。
陽菜がアンちゃんを抱きしめながら、困ったように私を見ている。多分陽菜は子ども達を温泉街に連れて行きたいんだろう。でも温泉街も絶対安全とは言えないし、自分たちもいつも温泉街に居るわけではない。だから無責任な事は言えないけど・・・と悩んでいるのだろう。
だけどこのまま孤児院に戻るよりは、温泉街に連れて行った方が断然良いと思うんだよね。温泉街なら子ども達のための大樹寮もあるし、遊び相手になる沢山の子供も居る。何ならメリーゴーランドやジェットコースターみたいな遊具を作っても良いかもしれない。
「ユリアナさん。子ども達をこのまま孤児院に戻すのは正直不安です。私達の住んでいる温泉街に子ども達を連れて行ってはダメでしょうか?他にも子供が沢山住んでますし、責任を持って自立出来るように育て上げると約束します。だから」
「むしろこちらからお願いしたいです!私もお手伝い致しますので、どうぞよろしくお願いします!」
「「「「「よろしくお願いします!!!」」」」」
意を決して発した私の言葉にユリアナさんは食い気味で了承し、とても深いお辞儀をする。その姿を見た子ども達もユリアナさんの隣に駆け寄り、一列に並んでお辞儀をしてくる。
私も思わず「よろしくお願いします!」とペコリとお辞儀をすると、顔を上げたユリアナさんと子ども達から輝くような笑顔が溢れた。
これからシューレ王国は良い国になるだろう。でも子ども達には今が大切なんだ。辛い気持ちのまま待っている時間は勿体ない。
温泉街に戻ったら子ども達の笑顔が絶えないように、しっかりと見守っていこう!まずはメリーゴーランドでも作っちゃおうかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます