第206話 酔っ払い?

 現在私達はクレマンが手配してくれた広めの部屋でフェデリコとリアム君、クレマンと共に、今回協力してくれた各国の代表団と細やかな酒宴を始めていた。・・・何故かもてなすホスト側で。

 本当は新国王となるオルランド王子が接待する予定だったけれど、オルランド王子は現在調きょ・・・教育的指導を受けているのでこの場には居ない。悲しい叫び声だけが今なお聞こえてきている。


 今この部屋に居るのは私達以外はツヴェルク王国のガンドール王、アマリア聖王国の代表のマイルズさんとカルロさん、魔道都市エテルネの魔道王、それと元宰相の息子であるルークさんだ。獣王国ベスティアの王と王女は只今お忙しいため、終わり次第合流予定となっている。


 アンナとガイン、ヒューゴには、各国の待機している騎士達にお酒や料理を振る舞ってもらっている。少数を残して大多数の騎士達は国へと移動を始めているが、代表団の警護をする騎士達は別室にて待機中だ。

 アンナとガインは堅苦しい酒宴よりそっちで楽しみたいと言っていたので、ヒューゴを連れて今頃楽しんでいる事だろう。気楽な飲み会・・・良いなぁ・・・。


 ちなみに子ども達とユリアナさん達は客室で休んでいる。子ども達はコタロウとリュウのふわふわな毛並みの背で揺られ、客室に着く前にぐっすりと眠ってしまっていた。ずっと気を張り詰め続けて、疲れ切っていたんだろうな。

 コタロウ・リュウと陽菜達は引き続き子ども達の付き添いをしてくれている。子ども達が起きた時に少しでも安心出来る環境にしたかったから、陽菜達が付き添ってくれるのは正直有り難い。


 それと今回の作戦の要であったリリー達も、今日はゆっくり休めるように手配してある。リリーやカイは酒宴も手伝うと言ってくれたけど、今日まで駆け抜けて来た疲労は本人達が自覚していなくても溜まっているはず。渋る2人を何とか部屋に押し込み、羨ましそうなフェデリコを引きずり酒宴の部屋に着いたのはついさっきだ。


「皆様、今回はご協力頂き誠に有難うございました。改めて御礼申し上げます。本来でしたらオルランド王子が挨拶をするべきなのですが・・・え~・・・諸事情のため少々到着が遅れており申し訳ございません。今宵は皆様のために細やかではございますが酒宴をご用意させて頂きましたので、どうぞお楽しみ下さい。」


 フェデリコの挨拶の言葉に、皆から苦笑が漏れる。まあ、さっきの現場と今なお聞こえる叫び声で、言わずとも誰もがオルランド王子が今どんな状況なのか分かっている事だろう。特に気にした様子もなく、各々が気になった料理やお酒に手を伸ばしている。


「相変わらず桜が出す酒は美味いな。」

「ありがとうございます。でも今夜は飲み過ぎて潰れないで下さいね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もちろん分かっている。」


 全く信用出来ない早さでお酒を飲んでいるガンドール王。明日今後の国交や同盟やらの詳しい話合いをする予定だから、潰れてもらったら困るんだよね。

 クレマンに酒量制限をかけたい意思を込めて目を向けると、しっかりと頷き返してくれたので、ガンドール王が酔い潰れる事はないだろう。


「このお肉も大変美味しいですね。・・・ちなみに何の肉かお聞きしても?」

「今日はお祝いの酒宴なので、オークロードの肉とシーサーペントの肉をメインに使ってますよ!お肉の旨味がぎゅっと詰まっているのに、油がしつこくなくていくらでもペロッと食べられちゃいますよね!」

「・・・オークロード。」

「・・・シーサーペント?」


 カティアダンジョン産のオークロードとシーサーペントは、アンナが頻繁に開催するデスマーチのおかげで、定期的に手に入って美味しい食材なんだよね。

 聞いてきたマイルズさんとカルロさんが、肉をじっと見つめながら何やらブツブツと呟いている。美味しいお肉は冷めても美味しいけど、どうせなら温かい内に食べて欲しいな。


「・・・桜ちゃんって何ていうか不思議な人だよね~。各国の主要人物への気安い態度にも驚きだけど、滅多に食べられない高級食材をまるで角ウサギの肉を出すかのようにポンっと出したりするし~。」

「まあ、温泉街の近くのカティアダンジョンでとれるから、比較的手に入りやすい環境にはあるかな。」

「いや、そういう事じゃなくて~・・・いや~、まあ、うん・・・もうそれで良いかな~。」


 何故か苦笑いしながら、俺が折れるよみたいなその態度は解せない。ガンドール王達が気安く接してくれているからであって、決して私が気安く接してるわけではない・・・はず。それに折角食べられる環境にあるんだから、皆で美味しいお肉を食べた方がより幸せだと思う。私が食いしん坊な訳では無いんだからね。


 意外だったのは広間で叱ったからか、魔道王も静かにお酒を楽しんでいる事だ。また「新しい魔道具を!!!」とか言われると思っていた私は、正直肩すかしを食らった気分だ。温泉街に帰るまでは魔道具についてまで話す余裕はないから有り難いんだけどね。




 その後も酒や料理を楽しみながら酒宴は和やかに進み、そろそろお開きも近づいてきた頃。それまで静かに飲み食いしていた魔道王が突然テラスへと出たかと思うと、夜空に向かって次々と魔法を放ち出した。

 

 色とりどりの鮮やかな光が次から次へと空へ上がり、花やドラゴンなどの魔物を形作っては消えていく。その光景は日本で見た花火のように美しい。懐かしさにキュゥッと胸が締め付けられ、私の頬を知らずに涙が伝っていた。きっと魔道王なりのこの国へのお祝いなのだろう。


 夜も遅かったため暗かった眼下の街も、この騒ぎであちこちに明かりがつき始めた。眠りを妨げられて文句が出るかとも思ったけど、逆に明るく楽しそうな雰囲気が漂っている。ここ最近鬱屈とした生活を強いられていた国民達にとって、この光は解放の喜びを表しているのかもしれない。


 魔道王にしては珍しく気の利いたお祝いにお礼を言おうと思った瞬間、「きゅう・・・」と意味不明な言葉が隣から聞こえてきたかと思うと、魔道王が床へと沈んでいく所だった。・・・もしかして酔っ払ってたの!?


 綺麗な花火を見せてくれた魔道王に訪れるであろう悲劇に思わずギュッと目を閉じるも、鈍い音は一向に聞こえてこない。

 どうやら床に頭をぶつけるすんでの所で、クレマンがギリギリ魔道王を頭をキャッチしてくれたらしい。流石うちの優秀な執事だね!





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