第205話 カオス

「ウッヒョーーーー!これは中々にスリルがありますねえ!」

「危なっ!おいっ!頼むから黙って座ってろって!」

「フェデリコ・・・座らないと落としますよ?」

「・・・・・・・はい。」


「きゃあーーーーー!魔法の絨毯に乗れるなんて映画みたーーーい!」

「陽菜!?身を乗り出すと落ちるぞ!!」

「う、う、う、動かないで陽菜ちゃん!」


 何故か魔法の絨毯で窓から突入してきた魔道王とオルランド王子に呆れていると、再び窓の外が騒がしくなる。聞き慣れた声に思わず体の力が緩む。

 ・・・・・いや、待って?何で皆の声が外から聞こえてくるのかな?


 嫌な予感を覚えつつ、魔道王に破られたステンドグラスのあった窓を眺めていると、そこから2つの空飛ぶ絨毯が突入してきた。

 予想通りというか何というか。絨毯から降りてきたのはフェデリコ、ヒューゴ、クレマン、そして陽菜、大河、優斗だった。


「な~んで皆まで窓から来るのかな?」

 私がジトッとした目でフェデリコを見ると、サッとヒューゴの背に隠れる。最早その行動が全てを物語っていると思うのだけど?


「桜様、申し訳ございません。暴走した魔道王がオルランド王子を攫い突入したので、私とヒューゴで慌てて追って参りました。フェデリコはいつもの悪いクセが出たようで、離陸直後に飛び乗って来たためやむを得ず。陽菜様達は・・・魔法の絨毯に乗りたかったのかと。」


 クレマンが落ち着いた声で状況を説明してくれる。フェデリコは後でお仕置き決定だね。陽菜達は楽しそうだったから・・・まあいっかな。魔法の絨毯に乗ってみたいって気持ちは・・・私も分かるし。


 ちなみにガインとアンナは、通常の方法でここに向かう各国代表団を先導してくれているらしい。本来はフェデリコもそこに混ざってる予定だったんだけどね?


「ルーク?お前もしかしてルークか!?」

「お~!やっぱりオルランドだ~!!お前が死ぬはずないと思ってたよ~!!!」


 私がクレマンから状況を聞いている後ろで、ルークとオルランド王子が再会を喜び合っている。どうやら同じ学び舎で学んだ学友あくゆうらしい。この2人の学園生活とか想像に難くないな。


 一頻り再会を喜んだオルランド王子は、ボロボロの姿で拘束されている王の下へと向かった。

「何故お前が生きている!?お前は死んだはずだ!!!」と相も変わらず喚いている王の太い指から、王の証である指輪を無理矢理取り上げ、冷たい目で見下ろしながら宣言した。


「今から俺がシューレ王国の新たな国王だ。俺はお前みたいなクズ王には絶対にならない。お前のせいで荒れたこの国を、ルリアと一緒に立て直していく。お前は亡き父の元へ謝りに向かうが良い。この者達を牢へ連れて行け!!!」

「「「「ハッ!」」」」

「オ~ル~ラ~ン~ドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 実質死刑宣告を受けた王様は、怨嗟のこもった声でオルランド王子の名前を叫びながら、宰相達と共に騎士達に引きずられて行った。あれだけカイ達にボコられたのに、まだまだ元気いっぱいなのはある意味凄いと思う。


「桜様!それで私はこの城を吹き飛ばせばよろしいので?」

「誰がそんな事言った!?ちゃんと打ち合わせたでしょ!?」

「はい!シューレ王国を消し炭にするって話ですよね!!」

「ちっっっがぁぁぁう!!!いいから、何もせずそこで大人しくしてて!じゃないと新作の魔道具見せないからね!!!」

「はい!待ってます!」


 シリアスな場面だというのに、何でこの人はこんなにマイペースなんだろう。しかもちょっとゴミ燃やします?みたいな軽いノリで言うような内容じゃないからね!


 魔道王の物騒な発言のせいで、ユリアナさんや子ども達が青い顔して震えているよ。

「大丈夫だよ~!絶対にそんな事させないから安心してね~!」と宥めながらお菓子を収納袋から出して子ども達に配ると、嬉しそうに食べ始めた。


「桜!俺も菓子食べたい!」 「僕も食べた~い!」

「桜のお菓子!?私も食べたい!」 「俺も!」 「僕も!」


 お菓子の匂いに釣られたコタロウ・リュウと陽菜達が、子ども達に合流してお菓子を食べ始めた。

お菓子とコタロウ・リュウのモフモフ効果で、子ども達が落ち着きを取り戻しホッと胸を撫で下ろす。陽菜達も弟妹みたいで可愛いのか、甲斐甲斐しく世話を焼いてるのが何とも微笑ましくてホッコリする。


「あれぇ?綺麗なお嬢さん方が、こんな所で何しておられるのですか?ここ今日から俺の城なんですよ。宜しければこれから俺とお茶しませんか?」

「おいおい、お前だけずるいぞ~!俺も混ぜろ~。」

 何て言いながら、オルランド王子とルークさんがリリー達を口説き始めた。


 こうして見てると、オルランド王子が女好きっていう鑑定結果は、あながち間違いではないのか。私やアンナには声かけてこなかったけど。まあ、声かけられたら迷惑だから別に良いんだけど、今はタイミング的にまずいと私の警鐘が鳴っている。


「オーリー・・・?」


 ちょうどそこへ終局を聞いた各国の代表団が、アンナとガインの案内で到着した。素知らぬ顔でフェデリコも合流している。そしてもちろんルリア王女とライオン王も。

 オルランド王子が口説いている姿をバッチリ見たルリア王女とライオン王から、恐ろしい殺気が放たれている。・・・この国やっぱり終わったかも。


 この後に訪れるだろう惨劇は子ども達の精神衛生上悪いので、オルランド王子とルリア王女とライオン王を残して、私達はクレマンの案内で足早に広間を後にする。衰弱している子供達とユリアナさんは、体調を考慮しコタロウとリュウの背に乗せて。


「や、やあルリア!待っていたよ!」

「誤魔化されないんだからぁぁぁ!!!」

「ルリアがいるというのに、お前という奴はぁぁぁ!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~!!!」


 その後、怒り狂ったルリア王女とライオン王に教育的指導フルボッコを受けるオルランド王子の絶叫が、城中に響き渡るのだった。





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