第204話 終局
「桜・・・だと・・・?」
リリーとコタロウとリュウに癒やされていると、暗い怒気を孕んだ声が私の名前を呟いた。声がした方を見ると、縄で縛られ怒りで顔を真っ赤にさせた王様が、私を怨嗟のこもった目で睨み付けていた。
「またお前かぁぁぁ!呼んでもないのに勇者達に付いて来ただけでは飽き足らず、勝手に連れ去った無能がぁぁぁぁぁ!いつもいつも儂の邪魔ばかりぃぃぃ~・・・今すぐこの縄を解けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
王様が今にも血管が切れるのでは?と思うほどに真っ赤になった顔でわめき散らしている。勝手に攫ってきておいて、付いて来たとは呆れてしまう。
ブチッ
ブチッ
ブチッ
・
・
・
あまりにも身勝手な言い分に言い返す気さえ起きずスルーしている私の耳に、何かが切れる音がいくつも聞こえた。それと同時に、「グェェェッ」という王様の潰れたような声が大広間中に響き渡る。
その声に驚いて声の発生源へと目を向けると、私に向かって悪態を吐いていた王様が、コタロウとリュウ、リリー、エマエル姉妹にミレイユ姐さん、そしていつの間にか合流しているカイに囲まれボッコボコにされていた。それも傷湯で怪我を治しながら。
・・・もうそれ拷問なのでは?
「「「「「お姉ちゃーーーん!!!」」」」」
当の本人以上に激しい皆の怒りを若干戦きつつ見ていると、嬉しそうな、それでいて何かを必死で堪えている様な複雑な表情をした孤児院の子ども達とシスターのユリアナさんが、ルークさんと一緒にこちらに向かって来るのが見えた。
いつもなら駆け寄ってくる子ども達がゆっくり歩いている。酷く憔悴しているみたいだけど、ぱっと見は大きな怪我など見えないので、少しだけホッと息を吐く。無事に助け出せて本当に良かった!
「みんな無事?怪我してない?」
「大丈夫~~~。」
「でも恐かったよぅ・・・。」
「「「「「うわぁぁぁぁぁ~~~~ん!!!」」」」」
ずっと泣くのを我慢していたんだろう。傍に着いた子ども達を抱きしめながら怪我の確認をしていると、安心して力が抜けた子ども達は泣き出してしまった。出会った時より痩せたユリアナさんも、やっと緊張が解けたのか少しだけ目元が緩んでいる。
「お久しぶりですユリアナさん。助けに来るのが遅くなってごめんなさい。」
「っ!いいえ・・・いいえ!助けて頂いて心から感謝しております!」
私がぺこりと頭を下げると、焦ったようにワタワタするユリアナさんが変わらず可愛くて、こんな状況なのに思わずほっこりしてしまう。
立っているのも辛そうな皆にとりあえずその場に座ってもらうと、
「ルーク・・・何故お前がここに居る・・・。」
「親父殿の最後を見届けるために。それが息子として出来る最後の孝行かと思ってさ。」
「そうか・・・。」
私が協力してくれた各国に現状報告をしていると、王様とは反対に大人しく捕まっている宰相の元に向かったルークさんと宰相が静かに話している姿が見えた。
話し声までは聞こえなかったけど、2人の表情が穏やかだった事に少しだけ安堵した。宰相の極刑は免れないだろうけど、それでも少しだけでも最後に家族として落ち着いて話せると良いな。
「さっくらさーーーーーーーん!!!!!」
「うわぁっ!?こんな場所で立ち上がらないで下さいよ!!!」
包囲作戦に参加してくれている各国への報告も終わり、オルランド王子が合流するまで休もうと腰を下ろしたのはほんの少し前。
持ち場からここに来るまでおよそ1時間はかかるだろうとリアム君と話していたんだけど、何で魔道王とオルランド王子の声が窓の外から聞こえてくるのかな!?
「ちょっ!嘘だろ!?待って待って待って!うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ガッシャーーーーーーーーーーン!!!!!
オルランド王子の悲鳴が聞こえたかと思うと、次の瞬間大広間入り口付近にある窓がけたたましい音と共に破られ、何かが窓から飛び込んできた。いや、誰かなんて聞くまでもない。こんな非常識な合流の仕方をするのは彼しかいない。
「終わったと聞いたので、急ぎ駆けつけましたよ!!!」
「俺・・・生きてる・・・?今度こそ死んだかと思った・・・。」
「いや、そこまで急がなくて良いんだけど・・・?」
私の目の前には、一番乗りにご満悦でニッコリ笑顔の魔道王と、その彼に無理矢理連れて来られ青い顔で座り込んでいるオルランド王子の姿が。魔道王は褒めてもらえると思ったのか、とてもキラキラと瞳が輝いている。うん。褒めないからね?
まさか今回の作戦の直前に完成した空飛ぶ絨毯で飛び込んでくるなんて、流石に誰も予想していなかった。一応何かあった時の緊急用にって説明してたのに・・・。
さっきまで色とりどりの光が降り注いでいた綺麗なステンドグラスが、今は見るも無惨な有様だ。これ、高いんだろうなぁ・・・。壊したのは魔道王なんだから、魔道都市エテルネに弁償してもらおう。そうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます