第202話 作戦決行

 ルークさんを含めた全員で、改めて今日の作戦についての再確認も終わり、今は迎えが来るまでのんびり待機中。

 何度か様子見という名の監視が来たが、その都度笑顔でリアムちゃんが対応し、見事に全員メロメロでお帰りになった。


「あのさ~、一度確認しておきたかったんだけど、リアムちゃんとミレイユさんっておと」

「それ以上言ったら今すぐ殺す。」

「…………はい、すみません。」


 目にも止まらぬ早さでルークさんの目の前まで移動したミレイユ姐さんが、ルークさんの耳元で何やらボソッと囁くと、真っ青になったルークさんがガタガタと震えながら謝っている。


 リアム君の性別については皆分かってるけど、ミレイユ姐さんの性別は一応ヒューゴと私とコルトしか知らない。多分何人かは気付いているとは思うけど、本人が秘密にしている事を誰も敢えて聞かないのが温泉街の仲間の素敵な所だと思う。


 それを今皆の前で暴露しかけるとか、彼は中々に自爆体質だね。この場にコルトさんが居なくて本当に良かった。危うく作戦前に血の雨が降る所だったよ。




 宵の口になり、そろそろ時間かなと準備を整えていると、リアムちゃんにメロメロになっていた執事が笑顔で迎えに来た。

 私達の服装は、入場門前で着ていた煌びやかな衣装。ただし私のベールの下には念話ピアスが付いている。何かあった時すぐに念話ピアスで各国と連絡を取るためだ。


「そろそろお時間ですので、宴の会場までご案内させて頂きます。」

「はい!よろしくお願いしま~す!」


 半ばやけっぱちになっているリアム君に執事の対応は任せ、私は執事から見えない位置で待機しているカイとルークさんにチラッと視線を送ると、2人は無言で頷いた。


 2人には私達が踊りと歌を披露している間に、別働隊として研究塔の最上階へ行き魔法障壁を切ってもらい、その後は人質救助に向かってもらう手はずとなっている。

 研究塔の下見で魔法障壁装置は見付かったが、召喚魔法について書かれた本は結局見つからなかった。なので本については、国取りが完了してから王様を締め上げて聞こうと思っている。


 執事の案内で宴の開催場所である大広間に着くと、既に王様と宰相が待っていた。噂の美しい踊り子達を一目見ようと集まった騎士達や魔道士達、そして貴族の姿も多く見られる。

 今が戦時中だという意識が薄すぎて、こっちが驚いてしまうくらいだが、そのおかげで城内も研究塔も警備は手薄だ。


「待っておったぞ!さぁ、お前達の踊りを見せてくれ!」

「畏まりました。今宵は王様のために踊らせて頂きますわね。」


 ミレイユ姐さんが王様の対応をしている間に、MAPでカイ達の現在地を確認すると、もう少しで研究塔の最上階に着きそうだった。タイミングバッチリだね。

 エクセリオンに始めるように視線を送ると、小さく頷き楽器を奏で始めた。いよいよ作戦開始だ。


 皆が今までで一番の踊りで男どもを引きつけている間に、私は歌いながらこっそり大広間の様子を窺う。

 出入り口はルークさんの情報通り、大広間への一般的な出入り用の扉、王族専用の扉、そして何かあった時用の緊急脱出口の3カ所だ。そこさえ塞げば取り逃す事は無いだろう。


 王様達は完全に油断しきっている。その証拠にニヤニヤと気持ちの悪い視線で踊り子達を舐めるように見ている。騎士、魔道士、貴族達も右に同じ。正直言って気持ち悪い。


 1曲目の踊りが終わり2曲目も中盤に差し掛かる頃、フッと私の中の魔力が活性化する感覚がした。カイとルークさんが無事に魔法障壁を消してくれたんだろう。


 その瞬間大音量のアラートが城内に鳴り響いた。魔法障壁が消えると鳴る様になっていたのだろうが想定内。

 MAPでカイ達の位置を確認すると、既に次の場所に向かって移動を始めている。


「良い所で何事だ!これは一体何の音だ!踊りの邪魔だ!今すぐ消せ!!!」

「こ、これは……魔法障壁が意図せず消えた時の警告音です!」

「何だと!?警備はどうなってる!!すぐに張り直せ!」


 警備の人員を大幅に削った自分の失態とは露程も思っていない王様が魔道士達に怒鳴っている間に、エクセリオンは緊急脱出口を、エマエル姉妹は王族専用出入り扉を、リリーとミレイユ姐さんとリアム君は一般用の扉の前に素早く陣取り封鎖は完了。

 私は魔法障壁が消えて使えるようになった魔法を使って、この場に居る全員を拘束する。


 まずは水魔法で大きな球体を作り、そこへ温泉でこっそり作っておいた麻痺薬を収納から取り出し混ぜる。その球体をここに居る人数分に分割し、後はそれぞれの口に向かって放つだけ。


「おいそこのお前!何をやっている!」


 私が麻痺薬入りの球体マヒボールで各人の口を狙っていると、その事に気付いた騎士が大声を上げる。おかげで全員の顔が私に向いた。チャンスをありがとう!


 マヒボールをその場に居る全員の口に向かって一気に解き放つ。騎士の何人かは手で防いだようだけど、その場に居た8割は口もしくは顔にしっかりかかった。麻痺薬は即効性なので、かかった人は漏れなくその場に倒れていく。もちろん王様と宰相も倒れている。


「全員は無理だったか。これじゃあまた神様達に怒られちゃうな。」

「貴様ーーー!一体何をしたーーー!!!」


 手で防いだ騎士達は、手にかかった麻痺薬のせいで力が入らないのか剣を握る事が出来ず、怒声をあげながら素手のままで私に向かってくる。

 そのまま向かってきても、さっきの二の舞になるとは思わないのかな?


 新たに収納から取り出した麻痺薬を原液のまま、水魔法を使って向かってくる騎士達に頭から浴びせると、流石に痺れて動けなくなった。あとは縄で縛っておけば、拘束完了だね!





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