第201話 ルークさんの訪問
部屋に戻り、皆に下見の結果を報告し終わった頃、部屋のドアをノックする音がした。MAPで確認すると、外に居るのは1人だけ。さっき研究塔の入口で別れたルークさんだ。
カイが扉を開けると先程までの魔道士姿とは打って変わり騎士姿に変装したルークさんが、いつもの様に楽しげな表情で立っていた。状況や場所が変わった今も、これまでと変わらないその表情には違和感しか感じない。
「やあやあ皆さん、こんな所で会えるとは光栄の極みですね~。お邪魔しても?」
「カイ。とりあえず中に入ってもらって。」
「ハッ。」
罠を疑いつつ部屋の中へ通すと、ルークさんはあっけらかんとした声で挨拶してくる。さっき私と研究塔で出会った事を気にした様子もなく、いつもの飄々とした姿勢は崩していない。
「サーラちゃ~ん、通してくれてありがとね~!皆に会いたくて、こんな所まで追いかけて来ちゃったよ~!」
「騎士や魔道士に変装までして?」
「こう見えて俺は高ランク冒険者だからね~。変装と潜入は朝飯前さ~。」
高ランク冒険者に変装のスキルは必須では無いと思う。その証拠に元Aランク冒険者のエマエル姉妹が苦笑いを浮かべながら首を振っている。
さっき研究塔で出会った時、それから今まで王国側から何の動きがない事から、彼は王国側のスパイでは無い可能性の方が高い。その真意は掴みきれないけど、何となく信じてみたいと直感が囁いている。
「時間が無いからお互い腹の探り合いは止めない?ねぇ、シューレ王国宰相の次男で、勘当されて冒険者になったルークさん?」
「・・・・・・・・バレてたんだ~?」
「うん、最初からね。」
「最初から!?サーラちゃんがいつも俺のこと警戒してるから何でかな~と思ってたけど、バレてたなら仕方が無いよね~。結果的に騙すような形になってごめんね~、異世界から来たお姉さん?」
宰相の息子だと知っていると告げると、ルークさんはどこか吹っ切れた様に肩の力を抜いた後、いきなり爆弾を放り投げてきた。
皆がルークさんの発言にギョッとする中、殺気を出して今にも斬りかかりそうなカイにギョッとする私。
「カイ大丈夫だから落ち着いて。」
「ハッ。」
「あっぶな~・・・。一瞬死んだかと思ったよ~。」
「敢えてこのタイミングでその爆弾ぶっ込んだ人がよく言うよ。」
あははと笑いながらも、さりげなくカイとの斜線上に私を挟むよう移動するルークさん。その動きにどこか毒気を抜かれてしまう。
とりあえず落ち着いてルークさんから話を聞くためにソファへと移動し、リリーが出してくれた紅茶を飲んで喉を潤す。
「それで?さっきの爆弾はルークさんの観察眼のスキルで知ったの?」
「サラッと俺のスキルを把握してるあたり、サーラちゃんも似たスキルを持ってるのかな~?」
「そう、私は鑑定が使えるの。まぁ城に入った今は、魔法障壁のせいで使えないんだけどね。」
「なるほど鑑定か~。俺の観察眼は鑑定みたいに詳細までは分かんないんだけど、観察対象が隠している秘密が見えるスキルなんだよね~。」
何そのスキル欲しい。そのスキルがあれば浮気やへそくりの場所だけじゃなく、ヒューゴやフェデリコの秘密を暴き放題だ!
政治においては不正や政敵の弱みを把握しやすいし、かなり有用なスキルだと思うけど、何で勘当なんてされたんだろう・・・?
私の表情でそんな疑問を察したらしいルークさんは苦笑交じりにこう言った。
「俺の父親はあの宰相だよ~?あいつに俺のスキルがバレてみ~?ドロドロとした不正の温床に引きずり込まれ、あっという間に巻き込まれて身動き取れなくされて、最後は捨て石にされるのがおちだよ~。」
実の息子にここまで言わせる宰相って、父親としても宰相としても腐りきってるなぁ。そんな宰相を徴用してる王様も、まあ同類だよね。
いつも飄々としてるルークさんだけど、意外と苦労人なのかな。
「周辺諸国から包囲されつつある今、君達の秘密を見たら何となく目的に察しはついたよ~。だから君達の手助けをしたくて、近くをウロウロしてたんだ~。」
詳しく話を聞くと、観察眼で私達の目的を察したルークさんは、腐敗していくシューレ王国を変えるチャンスだと思い力になりたかったらしい。
宰相は王様と一緒に甘い汁を吸う事しか考えて居らず、後継者である長男も全く同じ。
それに嫌気がさしたルークさんは実家を見限り、わざと遊びふけって父である宰相の反感を買い、計画通りに勘当され家を出たと・・・。
予想外にまともな考えを持っていたルークさんの話に、正直驚きを隠せない。面倒臭い事に巻き込まれたくなくて宰相家を出た、女好きでチャラチャラした人なのかと思ってたよ。
「・・・サーラちゃんさぁ、少し失礼じゃないかな~?」
「はっ!また顔に出てた!?」
「むしろ隠す気あったんだ~!?」
これは国取り後の新しいシューレ王国の宰相候補が現れたのでは?
ジトッとした目で私を見ているルークさんに新たな可能性を見出しながら、今後について思いを巡らせるのだった。
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長い間更新が止まってしまい、申し訳ありませんでした。
私の体調が中々戻らない中でかけがえのないもの大切な身内の不幸が重なり、心身ともに落ち込んでしまい、執筆もままなりませんでした。
まだ完全に復活とはいきませんが、これから少しずつ執筆を再開したいと思いますので、今後も応援して頂けると幸いです。
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