第190話 エルフ達の新しい里

 エルフ達の移住計画について話してから3日後、ついに居住区が完成した。ドルムとホルグのおかげで、皆でご飯を食べたり温泉に入る事が出来る施設も素晴らしい出来映えだ。


 ・・・・・正直良い大人な歳の私も、少し心が揺れてしまう。それくらいこの世界には娯楽が少ない。明日を生きるのに誰もが必死で、娯楽は二の次かもしれないけど、温泉街に来てくれた皆には余暇も楽しんで欲しい。

 今は温泉やお酒が皆の娯楽になってるけど、余裕が出来たら大人も子供も楽しめる物を作りたいな。


 エルフ達の家も大きく育った木に移設し、更にドルムが強度をあげてくれている。ちょっとやそっとの揺れや衝撃では壊れたり落ちたりはしないだろう。


 茶畑もまるっと移動させたけど、元気に根付いている。あの厄介そうな魔法はエルフ達が住む場所にかかっていたから、問題はなさそうでホッと一安心。これで美味しい緑茶がいつでも飲める!


 鑑定結果で問題ないと分かってはいたけど、やっぱり実際に目の前で元気に育っている姿を見るまでは不安だったんだよね。


「さぁ、今日からここが皆の新しい里です。足りない物や不自由な事があったら相談して下さいね。」

「・・・ありがとうございます、桜様。まさかこんな自然溢れる場所でまた暮らせるなんて思いませんでした。」


 住居の移設が終わり全てが完成した居住区を見せて驚かせたい!というリアム君の意を汲んで、家を移設している間は温泉街を案内しながらこれから住む国を見て回ってもらっていた。


 カティアの森の中だけど、温泉街はかなり人の手が入っている。決して自然豊かな場所とは言えない。だからきっと彼らは街を見学しながら、自分たちが住む場所はもう木々が溢れる場所では無いだろうと思っていたんだろう。


 サプライズにしたかったとはいえ、これは悪い事をしてしまったな。サプライズってこういうすれ違いがあるから怖いんだよね。


 自分たちがこれから住む場所を見たエルフ達の反応は2種類。驚き固まった後泣き出すか、驚き固まった後喜んで歓声を上げるかだ。村長さんは前者。声を押し殺して泣いている姿は中々に居たたまれない。


「桜様!僕達ここに住んで良いの!?」

「ここなら野菜育つかな?」

「ねぇねぇ、あの建物はなぁに?」

 好奇心旺盛なエルフの子ども達は、興奮で目を大きく見開きながら聞いてくる。


「そうだよ。今日からここが皆の暮らす場所だよ。野菜だって果物だって、お腹がいっぱいになっても余るくらい作れるよ!あの建物は・・・行ってからのお楽しみ!」

「「「お楽しみ!?行きたい!!!」」」

「よ~し!じゃあ一緒に見に行こう!」

「「「おーーーーー!」」」


 ソワソワしている子ども達と一緒に里の中心に建っている建物へと向かうと、大人達も気になっていたのか後ろを付いて来た。心なしか誰も彼もがワクワクしている気がする。


 実は自然の温もりを感じるこの建物には、エルフの子ども達のために随所に遊びが取り入れられている。扉を開けて皆を中へ案内すると、真っ先に目に飛び込んできたのは回転遊具や小さなブランコたち。


 その先に見えるのは2階へ続く階段の横に設置された大きな滑り台。この滑り台を使えば、一気に1階へ下りる事が出来る。


「これ何~?」

「くるくる回るよ~?」

「これは皆が遊べる遊具だよ。こうやって使うの。」


 私が手本を見せると、子ども達だけではなく大人達からも歓声が上がった。すぐにでも遊びたそうなエルフ達を何とか押しとどめ、先に建物の中を案内する。


「ここは食堂だよ。皆で一緒にご飯を食べる場所。ここなら全員分の料理を作るのも前より楽になると思うよ。」

「この箱は何ですか?」

「煮炊きはどうやったら出来るんでしょうか?」


 今まで皆の料理を作ってきたであろう女衆が興味津々に見て回り、見慣れない冷蔵庫や調理器具について聞いてくる。一つ説明する度に歓声が上がるので、ちょっと嬉しい。


 キッチンを今までエルフの里で使っていたようにするか、私達が使っている便利な器具を入れるかで悩んだけど、この反応を見るにこっちを選択して正解だった。

 大人数の料理を作るのはかなりの重労働。料理を作る1人としては、少しでも楽に作れたらと思ったんだよね。


 今すぐにでも新しいキッチンで料理をしたそうな女衆を何とか説得し、温泉へと案内する。まずは疲れを癒やして欲しいし、料理は歓迎会用に既に準備してある。皆が温泉に入っている間にリアム君と料理長達がセッティングしてくれる予定だ。


「さあ、本日最後に案内するここは温泉です!女湯は私、男湯はクレマンが案内するよ!」

「では男性陣はこちらへどうぞ。」


 ここで男女別に分かれて温泉へ。もちろん私も一緒に温泉へ入ったんだけど、その結果私は心に大ダメージを負ってしまった。


 ・・・・・エルフはやっぱり美しいね。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る